思い詰めた表情が上手い役者ジャッキー・チェン

『新宿インシデント』鑑賞。

新宿インシデント [DVD]

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その昔、ジャッキーが主演した映画で『ファースト・ミッション』というのがあったが、この作品はジャッキー映画の中でもいくぶんシリアスに作られてる作品だった。監督はデブゴンことサモ・ハン・キンポー。サモハン演じる知的障害者の兄を守り続ける正義感の強い刑事をジャッキーが演じているのだが、ジャッキーは笑顔をふりまきながらも知的障害者の兄のことでひたすら悩み続ける。時に感情を爆発させ、涙を流すジャッキーを観て、「こういう演技もいいじゃないか!」と思ったジャッキーファンは少なくないはずだ。

『ファースト・ミッション』でジャッキーは刑事でありながらも人を殺し、さらに最後は逮捕される。しかも刑務所の生活を延々見せてエンディングを迎えるという、非常に重々しい作品。なんでこういう映画を?と素直に思うのだが、その後にサモハンが『ペディキャブ・ドライバー』や『イースタン・コンドル』という重々しいカンフーアクションを撮ることを考えると、その布石として『ファースト・ミッション』を撮ったことも納得出来る。

さて『新宿インシデント』である。

一応この作品のウリは「アクションをしなくなったジャッキーが見れる」ということになっているが、それよりも「イー・トンシンが監督した“青龍刀事件”の映画にジャッキーが出ている」方が正しいだろう。血なまぐさいバイオレンス、丹念に描いた不法入国者の生活、ヤクザの世界、格闘シーンも流麗ではなく、棒切れを持ってぶんぶん振り回すだけ、ジャッキー作品で見かける役者も登場しているが、あくまでアクションが出来るからではなく、役柄として必要だから登場している。このように今までジャッキー映画には登場しなかったパーツが、圧倒的な迫力を見せつけてくれる。

ジャッキーはそれに呼応するかのように『ファースト・ミッション』で見せた演技を完全に熟成させて味わい深いものにしてみせた。笑顔を見せることなく、ひたすら「思い詰めた表情」をし続け、仲間のことを思い心の奥底から湧き出るように涙を流す。加藤雅也峰岸徹、倉田保明、竹中直人というベテランが脇に回りそんなジャッキーを見事にサポートする。

しかも恋人を追って不法入国したというジャッキーの設定が良い。金のためでなく、仲間のために犯罪に手を染め、あげくの果てにヤクザの幹部まで殺してしまうのだが、自分の中に明確なルールがあって、ヤクザと手を組みながらも何処か良い人というところでハラハラさせてくれる(ジャッキーの周りにいる人間がとにかく悪過ぎるヤツなので)。

『新宿インシデント』は「思い詰めた表情が上手い役者ジャッキー・チェン」が観れるだけでなく、青龍刀事件をあくまで映画として昇華したことも評価すべき点であると思う、とにかく必見だ。