ジャッキーにとっての“The End”『ライジング・ドラゴン』

ライジング・ドラゴン』鑑賞。

『サンダーアーム/龍兄虎弟』、『プロジェクト・イーグル』に続く、“アジアの鷹”シリーズ第三弾にして、いわゆる「ジャッキー映画」と呼ばれている本格アクション最終作。

先日放送されたタマフルの“ジャッキー特集”にて、ジャッキーにとっての『グラン・トリノ』ですからねーと言われていたが、実は内容的にジャッキーにとっての『グラン・トリノ』は『ダブル・ミッション』である。

そのときのエントリにも書いたが『ダブル・ミッション』は周囲から止められながらも、家族のためにスパイを引退するという設定で、この場合のスパイは“スーパースター、ジャッキー・チェン”のことであり、「オレだったら、女よりもこの仕事を選ぶな、スパイは誰もが憧れる職業だぜ」というセリフがそれを象徴している。作品の中で後継者が見つかるわけだが、これは『グラン・トリノ』でイーストウッドアメリカの魂としてタオくんに渡したグラン・トリノと呼応する。

つまり、ジャッキー・チェンはすでに一度作品の中で引退を表明しているのだ。

しかし、映画としてスケールが小さかった『ダブル・ミッション』がジャッキーのアクション映画引退作となるのはファンとしても少し寂しい。そこへ、ホントの意味でのアクション映画引退作がここに登場した。

ハッキリいうと内容はそれまでの“アジアの鷹”シリーズと変わらない。しいていえばお宝を狙う敵が他にいないくらいなもんで、ジャッキー版「インディ・ジョーンズ」としての志向が強かった前二作に比べ、今作はコミカルなジャッキー版『ミッション・インポッシブル』という感じだ。今までは一匹狼のトレジャーハンターだったアジアの鷹も今作では若い仲間が数人いて、超がつくほどのハイテクマシンでお宝を盗んで盗んで盗みまくる。

残念だったのは美術。ハッキリ言うとセットのクオリティが香港映画時代のそれと比べると著しく低い。あきらかにセットですよーというのがよくわかる作りで、逆にいうと『サンダーアーム』のカルト教団の組織や『プロジェクト・イーグル』の妙な工場など、どうやって作った?/どうやって探し当てた?というくらいで、あれが高水準だったということにあらためて驚かされた。やはり香港映画はハリウッドにも負けてなかったのだ。

しかし、それを鑑みても、ジャッキー映画としての水準はキープされてるように思った。『ダブル・ミッション』でさすがに老いを感じさせたジャッキーのアクションだが、今作は大盤振る舞い。ルチャリブレのような空中殺法など新機軸となる動きを取り入れつつ、『五福星』をパワーアップさせたような全身ローラースケートのアクションから、小道具を使った小気味良いアクションの連打はジャッキー映画の様式美として「よっ!待ってました!」と声をかけたくなったくらい。アクロバティックにガムを食べるなどアジアの鷹シリーズファンへの目配せも忘れず、それ以外でも今までジャッキー映画に出て来た小ネタがそこかしこにあって楽しく、ラストは今までのジャッキー映画ではありえない展開が待っている。

さすがにCGやワイヤーワークを多用しているものの、変に早回しや細かいカット割りにしない、監督:ジャッキー・チェンの手腕も変わらず嬉しい快作。豪華ゲストの顔見せ出演やエンドクレジットでのメッセージはビートルズが『アビイ・ロード』の中で歌った“The End”のようであった。おもしろかったし、大満足だったが、これで終わりなのか……という寂しさの方が強かった……うう……