映画は快作ながら、一抹の寂しさも……『ダブル・ミッション』

『ダブル・ミッション』をレンタルDVDにて鑑賞。

スゴ腕の諜報員として活躍する中国人のボブだが、彼には3人の子供を持つシングルマザーの恋人・ジリアンがいた。ジリアンは彼ほど誠実な人に出会ったことがないと子供たちに話すのだが、子供たちはボブのことを心底嫌っている。ジリアンとの結婚を考えていたボブは愛する人と家族を危険な目に遭わせられないと引退を決意し、惜しまれつつ引退したボブだが、ジリアンには文房具のセールスマンをしているとウソを付いていて、なかなか真実を告げられずにいた。そんなある日、たまたまジリアンの息子が、ボブのパソコンを勝手にいじり、ロシアの極秘データーをダウンロードしてしまう……そのことをロシア側に知られたボブに次々と刺客が襲って来て……というのがあらすじ。

『ジングル・オール・ザ・ウェイ』や『ベートーベン』を撮ったブライアン・エヴァントが監督を担当しているが、これが大当たり!『007』シリーズに『トゥルー・ライズ』を足したような内容だが、映画は至って軽いポップコーンムービーで安心して観られる痛快作。

『新宿インシデント』や『ベスト・キッド』ではない、いわゆる「王道ジャッキー映画」の部類に入る作品なのだが、さすがのジャッキーも無理は出来ないのか、これは!というスタントはなく、アクションは手先のモノと得意な壁を駆け上がるなどのパルクールだけに留まっている。ところが、映画をウエルメイドでライトなコメディにしたことで、見せ場となるスタントアクションを披露するまでもない雰囲気にした。逆転の発想とはまさにこのことで、スケールの大きな作品をあえて、小さくまとめたことで、軽いアクションだけでもジャッキーブランドとして成立するように絶妙なバランスをとっているのだ。

それは脚本にも如実に現れており、プロットは任務を遂行することと、なつかない子供をなつかせるという二つのミッションがジャッキーに課せられるが、ウエイトは後者の方にかかっている。このことで、演技者としてのジャッキーの魅力も十二分に引き出すことに成功した。その内容が示すように、邦題は『ダブル・ミッション』というものになったが、『ファースト・ミッション』をもじりながらも見事なネーミングだと思う。

このように、作品にはとても満足したが、その分、一抹の悲しさを覚えたことも事実。なぜならこの作品において、ジャッキーは周囲から止められながらも、家族のために引退を決意するという役柄なのである。「オレだったら、女よりもこの仕事を選ぶな、スパイは誰もが憧れる職業だぜ」というセリフを同僚に喋らせているが、これは誰もが子供の頃憧れたジャッキーに対する心からのセリフだろう。そして、映画の中で「君はスパイの才能があるな」と子供に同僚が言うのだが、これは後継者を捜し、見つかれば子供だろうが、アメリカ人だろうが、関係なく、後継者にし、ぼくは引退するというジャッキーのメッセージとも読み取れる*1

というわけで、アクション的*2にも内容的にもジャッキーの総決算な作品になってしまった『ダブル・ミッション』。イーストウッドが『グラントリノ』を撮ったように、ジャッキーもこれでいわゆる「ジャッキー作品」からは身を引くかもしれない。それはとても寂しいのだが、ハリウッドの職人監督と手を組み、これだけの快作を作り上げたジャッキーにはお礼を言いたい。ハリウッドに渡ってからのジャッキーはイマイチと思ってる人にもおすすめだ!あういぇ。

ダブル・ミッション [DVD]

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*1:深読みかもしれないが

*2:冷蔵庫や脚立が登場し、それが過去作のオマージュになってる