今んとこ2011年のベストワン!『イップ・マン 葉問』

イップ・マン 葉問』をレンタルDVDで鑑賞。

問答無用!空前絶後の大 大 大 大 傑 作!!!!!!!!!!!!

イップ・マン 序章』は香港映画史と『SPIRIT』の流れを汲んだうえで、ジャンルを再構築し、その先を見せつけた大傑作だったが、なんと『葉問』はそれを土台にグッと香港カンフー映画のショーケースに納めていた。『序章』がどちらかというと崇高な佇まいだったのに対し、『葉問』はいわゆるひとつのカンフー映画である。そこは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズや、それこそブルース・リーの『ドラゴン怒りの鉄拳』、『ドラゴンへの道』などと文脈は同じと言える。

ところが、この『葉問』が他のカンフー映画と違うのは『序章』が最初に作られているという点だ。

いやいや、そりゃ『葉問』は『イップ・マン』の二作目/続編なんだから、当然そうなるだろうと思った方、まぁ落ち着いて先を読んでください。

『序章』と『葉問』は単なる一作目/二作目の関係ではない。無論、前編/後編でもなければ、続きもの、姉妹編という関係でもないのだ――――互いが補填し合ってるというと、欠点があるのか?という風に捉えられて、聞こえは悪いだろうが、『序章』あっての『葉問』だし、『葉問』あっての『序章』なのである。関係性でいえば、『バットマン・ビギンズ』と『ダークナイト』とか『28日後…』と『28週後…』とかに近いものがあるかもしれない。あとロメロのゾンビ三部作とか。まぁだからと言って『ダークナイト』を観たから『ビギンズ』の評価が上がるわけでは決してないのだけれど……

正直、ぼくは『序章』を大傑作だと思っていたが、『葉問』を観ることでまたその評価がグッと上がった。もしこれが観る順番が逆だったとしても*1そうなっていただろう。つまり、この二本はそういう関係性なのである。

『序章』では『ドラゴン怒りの鉄拳』をモチーフにしていたので、カンフー映画でありながら、ドラゴン映画*2としてもバランスが取れていた。それが下地にあるため『葉問』では、そのフォーマットをいわゆるひとつのカンフー映画に落し込んでも、文脈上のドラゴン映画からブレることは決してない。逆に言うと、娯楽性豊かな『葉問』のプロットにひと捻り加えたら『序章』になってしまうため、今度は『序章』がいかにカンフー映画としても特出していたか?というのがより際立つということになる。

登場人物にしてもそうだ。単に続編だから出ているという扱いではなく、両方の登場人物の心情が『葉問』を観ることによって、より深くなる。特にサイモン・ヤムはチョイ役扱いになってしまっているが、これを逆手にとってキチ○イがイップ・マンの活躍によって復活するというシーンを「敵対する国にやられてきた中国人のアイデンティティを取り戻す」というメタファーにしてしまった。これは「海外に才能が渡ったことで、ハリウッドに押されてきた香港映画の尊厳を取り戻す」という意味にも取れるわけだが、この二重のメタファーは『序章』を観ていないとまるで意味が分からない*3

そしてドラマ性を重視していた『序章』に比べ、『葉問』ではカンフーが多めになっているのも特徴。その見せ方やキレ味はパワーアップし、川井憲次のスケール感たっぷりの音楽とグリングリン動くカメラワークで誰もが魅了されること必至。

特にその中でもサモハンとドニー・イェンが相対するシーンはえも言われぬカタルシスが待っていて、個人的には涙無しでは観られなかった。何故ならばサモハンも過去に詠春拳の師匠役を演じているからである!!それとラスト……あのラストは卑怯ですな。泣くに決まっておろうが*4

エスタブリッシングショットを多用し、映像的に迫力があった『序章』に比べると、ややコンパクトにまとまってるきらいがあるが、それでもオープニングクレジットではオーソン・ウェルズ顔負けの建物通り抜けショットなどを使ったり、狭い通路を上からすべるように映してみたりと要所要所でインパクトを与えている。こういった超絶なカメラワークをピンポイントで使うあたりも『葉問』がカンフー映画に寄せていることがわかる。だからと言って美術に抜かりはなく、一瞬しか写らないシーンであってもそのディテールは細かい。

というわけで、良いところをあげたらキリがないので、この辺でやめる。とりあえず四の五の言わずに観て欲しい。もう今年のベストワンは序章と葉問の二本で決まりだと言ってもいいだろう*5。おすすめだ!あういぇ。

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イップ・マン 序章&葉問 Blu-rayツインパック

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*1:日本では2にあたる『葉問』が先に公開された

*2:神様ブルース・リーが出演している映画や、その魂を受け継いだ作品のこと。文脈で言えばカンフー映画の一種なのだが、ここではきっちりドラゴン映画という風に分けたいと思う。ちなみに『少林サッカー』はカンフー映画ではないが、ドラゴン映画であるし、『チョコレート・ファイター』にカンフーは出て来ないが、ドラゴンは出て来る。つまりはそういうこと。

*3:しかも『序章』は作品自体がそういう文脈をもっていた

*4:©暗黒皇帝

*5:と言いながら、まだ『MAD探偵』観てないからなんともいえない。去年、一昨年とジョニー・トーをベストワンにしているもので……