復讐/拷問映画の極北『悪魔を見た』

『悪魔を見た』をレンタルDVDで鑑賞。つまり悪魔を見たを観たのである。ぐふふ。

とある殺人鬼がとある女性を殺して、手慣れた手つきでその遺体をバラバラにし、翌日その首だけが発見された。その女性の夫は警官であり、その親もまた警官であった。彼らは警察官であることをフルに活用して犯人への復讐を決行する。そして容疑者のリストから、この手の犯罪が起きた時に捜査線上にあがる4人にターゲットを絞り込むのだが……というのが主なあらすじ。

なんともユニークな倒叙形式の韓国産復讐映画。ところが、映画はあれよあれよという間に予測のしなかった方向へとドンドン進んでいく。言ってしまえばこの作品、ランタイムが一時間を過ぎたあたりで、主人公の目的は達成されてしまうのだ。そして真の目的が明らかになり始めるや否や……というのが特徴で、あらかじめ敷かれたレールの上を走っていたつもりだったのだが、それは全部ミスリードだったということを知らされる。

序盤からギアはトップスピードであり、とてつもない情報量でもって観る者を圧倒していく。セリフはほとんどなく、状況や心情を引き出しの多い映像で切り取っていったかと思えば、バストショットとロングショットを多用し、重厚な画作りも忘れない。奇を衒ったカメラワークはここぞという時にしか使わず、中盤、360度パンしながら繰り広げられる殺戮シーンは映画史に残るほどの斬新さと残酷さ。

韓国からは生きのいい復讐/拷問映画が多数あり、パク・チャヌクの復讐三部作や近年の『チェイサー』、少し前だと『カル』なんていうのもあったが、『悪魔を見た』はこれらの極北ともいえる。2時間20分以上の長尺でありながら、ダレるシーンはひとつもなく、最初から最後まで、復讐!拷問!復讐!拷問!を繰り返していくだけなのである。そのためかプロット上に明らかな問題点(ホントにこれを言い出したらキリがない。いくらなんでも!という偶然が何個か重なったりするし……)が散見されるが、それがなんぼのもんじゃい!という気概に満ち満ちている。

そして、この映画のメインディッシュともいえる、直接的な描写と間接的な描写を織り交ぜた拷問シーンはまさにスペクタクル!いよー待ってましたぁと言わんばかりの多種多様さでグランギニョールとしても一級品。痛いシーンもさることながら、それ以外「え?それ映画に映してしまっていいの?」というこちらの目を覆いたくなるようなものが、なんの前触れもなく唐突に映されたりと、すべてにおいてぬかりはない。グランギニョール好きであるという個人的嗜好も相まってか、この作品にはぼくが映画に求めるすべてがあった。

基本的に映画を観る際、役者にはちっとも興味がないのだが、この作品でのイ・ビョンホンチェ・ミンシクの演技合戦はそれ単品でも見応えありまくりで、セリフに頼らない部分での抑揚と表情がとにかくうまい。監督の演出もあっただろうが、目だけしか映さないカットを延々使ったり、身体の隅々まで演技を要求されているようであった。

ハッキリ言って、この作品は『ダークナイト』と言ってることは変わらない。ビョンホンをバットマンだとは言わないが、トゥーフェイスのような存在であり、相手役のチェ・ミンシクはジョーカーである。欲望に忠実な悪魔であるミンシクを寸止めさせる悪魔ビョンホンは留まることを知らず、天井上がりに二人のやりとりはヒートアップしていくが、前半の描写すべてを忘れさせてくれるようなド級の一撃が最後にあり……とこの辺でやめておこう。とにかく神にすら支配されることを拒んだ悪魔を支配するとどういうしっぺ返しを喰らうのか?そして、その支配する側も悪魔だったら?というのが最終的に映画が行き着く場所だ。

というわけで、ありとあらゆる復讐映画を墓場送りにしてしまった『悪魔を見た』はタイトル通り、悪魔的な映画であった。毎回書いているが、本当に韓国映画はすごい。日本映画も『冷たい熱帯魚』という作品が公開されたが、負けじとがんばってほしいものである、あういぇ。

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映画における欠点を指摘した記事。肯定派であるぼくもこの欠点は認めているところ。ただ、それを凌駕するパワーが!

悪魔を見た | ナマニクさんの暇つぶし

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