くりごはんが嫌いな男の2011年ベスト&ワーストムービー


さて今年もやって参りましたベストムービー発表の季節です。

今年は映画というよりも、音楽とテレビ漬けになってた一年だったといえます。故に他の映画ブロガーさんよりも圧倒的に観てる本数は少ないです。その中でも繰り返し観たいとか、実際繰り返し観たものを中心に選びました。どうせ年末は書き入れ時で忙しいし、去年もこれくらいに発表したので、今年も同じ時期に発表しちゃいます。なのであんまり参考にならないはずです。『スーパー!』や『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』や『ドリームホーム』などの話題作も観れてないし……

「今年公開された映画」で観たのは後追いも含めて73本で、あまり観てないなぁと言っておきながらも去年より多かったです。


それではベストムービー2011の発表でございます!!


1.イップ・マン 葉問(序章でも可)
2.スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団
3.MAD探偵 7人の容疑者
4.SUPER8/スーパー8
5.ランゴ
6.探偵はBARにいる
7.悪魔を見た
8.ソーシャル・ネットワーク
9.ピラニア3D
10.キラー・インサイド・ミー


軽くコメントなどを。

ハッキリ言って2011年はドニー・イエンの年だったといっても過言ではなく、『孫文の義士団』や『精武風雲』などの傑作もあったが、やはりここは特出した1.を。特に『葉問』を観ることで『序章』の評価も格段にあがるという、互いが互いを補填し合う奇跡のような二作。普通の人よりカンフー映画を観ていると自負しているが、その中でもトップクラスだった。輸入BDやレンタルDVDを駆使して両方とも10回近くは観ている。とにかく文句なしにおもしろかった、それしか言葉がでない。『葉問』を一位としたが当然『序章』も同率の一位。二本で一本という印象なので一作とした。というか、他にも外せない作品が……

2.も1.と同じく輸入BDとレンタルで5回くらい繰り返し観ている作品。サントラも買ってしまった。このランキングの中ではいわゆるひとつの「オレの映画」扱い。「ゲームっぽい」と揶揄されてしまいがちな演出において、ゲームっぽいことを過度に再現するとどうなるのか?という実験的な要素もある。ジャパニーズサブカル文化へのオマージュがてんこもりで『キル・ビル』を観た時の感動が否が応でも蘇り、さらに主人公の葛藤や成長/戦いをゲームのバトルとして表現していて、それにエクストリーム感があまりないのもよかった。いまんとこエドガー・ライトの作品にハズレなし。

去年、一昨年とジョニー・トー作品がベストワンで、今年は3.が公開されたが惜しくも三連覇はならず。とは言っても、こちらもすさまじい映画で、UK盤のBDを買ったほど。ゴッホが刑事だったらどうやって捜査するか?というのを元に北野武イズムを注入。MADの名にふさわしい狂いに狂ったシークエンスが連発されるもクライマックスの美しさは『冷たい雨に撃て〜』の竹林での銃撃シーンに匹敵する。その対比ったら……

4.は2.や5.と同じくサンプリングムービーとしての評価。スピルバーグ愛と映画的記憶のごった煮。特に音楽の使い方がよく、見終わった後に楽曲を集めて、iTunes上でコンピ盤を作ってしまったくらい。『キックアス』も『エンジェル・ウォーズ』もそうだが、基本的に既存の音楽をここぞという場面で使われるとその映画のことを好きになる傾向がある。この映画もそうで、オープニングとエンディングにやられた。

『荒野のストレンジャー』や『ケーブルホーグのバラード』をベスト作としているぼくが5.を嫌いになるはずない。これをあの海賊映画の監督が撮ったことにも感動。こちらも監督にとっての『キル・ビル』かと。水や砂などの写実感と箱庭感が特出していたように思う。映像だけだったら『タンタンの冒険』よりも好きだ。

去年は『ゴールデンスランバー』を10位にし、今の日本のスケールでやるにはちょうどいい娯楽作と評したのだが、それは6.のためにあるような言葉だった。古き良きプログラムピクチャーのテイストに大泉洋がピッタリとハマる。ハードボイルドの教科書があったとすれば、それを丁寧に書き写してるようでそこに感動した。邦画はこういうタイプのものだけ作り続けてればいいのだ。

7.は思わぬ伏兵が潜んでいたという感じ。始まってから終わりまでテンションが高く「このテンションがまさか二時間以上も続くわけないよな」と思っていたら、ホントに終わりまで突っ走っていてぶったまげた。ところが映画はつねに復讐と拷問を繰り返すだけのシンプルさ。その描写も観客を突き放すくらい強烈。今年も韓国映画はイキが良い。

8.はデイヴィッド・フィンチャー渾身の一作。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のような新しいクラシックで、それは『市民ケーン』を下敷きにしたから。これ!という奇を衒ったカメラワークに頼らなかったのもよかった。

9.も今年10回近く観た。映画にこれ以上何を求めるという潔さ。酒飲みながら野郎同士で観ると盛り上がること必至のパーティームービー。これからも何度も何度も観るだろう。

10.は『内なる殺人者』の完璧な映像作品。まさかここまで忠実に再現しているとは思わなかった。英国産テキサス風味の極上バイオレンスなので、そこまで脂っこくなく、それでいて緩い時間がいやーなまとわりつきかたで流れていく。去年の内に観たが、その時も10本の内の6位くらいかなと言ってたくらい好きな作品。原作にある禅問答のようなひとりごとを全部カットしたのも正解。マイケル・ウィンター・ボトムはホントに偉大な監督だ。



キック・アス』と『ソウルパワー』は今年新潟で公開された作品でどちらも大傑作ながら、正確には去年の映画なのでとりあえず除外。

ベストにはしなかったが、それでもおもしろい!と唸った映画は多く。『孫文の義士団』 『精武風雲』 『アンチクライスト』 『アイ・スピッド・オン・ユア・グレイブ』 『レイジング・フェニックス』 『デューデート』 『冷たい熱帯魚』 『イリュージョニスト』 『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』 『ブリッツ』 『ブルーバレンタイン』 『猿の惑星/創世記』 『ゴーストライター』 『タンタンの冒険』 『アザー・ガイズ』 『ムカデ人間』 『スカイライン』 『ツリー・オブ・ライフ』 『マイ・バック・ページ』などがよかった。あと『エンジェル・ウォーズ』は劇場で観た時はそうでもなかったけど後にBDに収録されたエクステンデットカットはすごく良かった。こっちなら好きと素直に言えるなぁ。


2011年ワーストムービー

1.コクリコ坂から
2.もしドラ
3.コリン
4.アジャストメント
5.ツーリスト


1.は敗北としてのカウンターカルチャーを描いてないのがダメ。その象徴ともいえる学生運動に対して「こうあってほしかった」という宮崎駿の思想がアメリカンニューシネマ好きとして許せずワースト。というか、まず演出がヘタクソ。これはオレの意見じゃなく、宮崎駿NHKのドキュメンタリーで言ったことでもある。

2.は元々低くハードルを設定していたが、それよりも遥かに出来が悪くて本当にビックリした。ツイッターのつぶやきから端を発した町山智浩氏の『もしドラ評論』はすごく気を使っていたんだなというのがよく分かるくらい本当にダメなところだらけの映画。出来が悪いという意味ではダントツのワースト1。

3.はうまいし、かなりいい線いってるとは思うけど退屈だった。長い。もし彼に予算を湯水のように与えたらどうなるか?というのは興味深いが……

4.は単純に全然おもしろくない。すごくおもしろそうだっただけにビックリした。暗黒皇帝に東京でお会いした時「実は『アジャストメント』ああいう書き方したんですけど、死ぬほどつまらなかったんですよね」と言ったら「オレもそうだったよ」と言っていた。

5.は4.よりもまだマシかなと思ってこのランク。オチでイスからずり落ちそうになった。


【総評】

今年は世間的に評価が高い映画にたいしてピンと来なかったのが多く。『ブラック・スワン』はオフ会でさんざん意見を交換してなるほどすばらしいなとは思ったんだけど、やっぱり好きかと言われるとちょっと違う気がしていれなかった。実は『レスラー』も同じ意味合いでその年のベストにしていない。高評価である『ミッション:8ミニッツ』や『127時間』も同様で、今年の映画を思い返した時に名前すらあがらなかった。逆に酷評されてるような『SUPER8』 『悪魔を見た』 『ツリー・オブ・ライフ』は驚くほどおもしろかったし感動した。ただ残念なのが、今年のランキングであるはずなのに、遅れて公開された傑作が多かったということ。だから実際2011年製作の映画はかなり少ない。

特にベストテンを選んでみて驚いたのは、映画的な記憶を逆行させる作品が多かったなということだ。リメイク作品はもちろんのこと、ブルース・リースピルバーグ市民ケーン、西部劇、アニメ、プログラムピクチャーなど先人達が切り開いたものへのリスペクトがあり、そこから新しいものを作ろうという意志を感じた作品がとても多かった。特に『キル・ビル』以降の「好きなものを歪な形になるほど詰め込む」という文法にならった作品が多く、これからももっともっと増えるだろうなぁと思った。それによって改めて映画を観ることの喜びや楽しさを教えられたし、映画を初めて観た時の感動が蘇るものばかりで多幸感に溢れた一年だった。


ちなみに空中キャンプ主催の「今年の三本」はまるで違うものを選んでおりますのでお楽しみに。「三本を選んだ理由」というしばりがあるんで、それはそれで考えるのが楽しいんですよ。

というわけで以上2011ベスト&ワーストムービーでした。あういぇ。