特濃アクションのフルコース『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』

ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』を鑑賞。かなりお客さんが入っていて、このシリーズの人気っぷりがうかがえる。

シリーズ全体を通して人生のベスト作には絶対ならないものの、つい気になって見てしまうという作品があるわけだが、この『ミッション:インポッシブル』シリーズもその内のひとつである。それにしても『M:i-2』だの『M:i:III』だの表記をコロコロ変えるのやめていただけませんか。

個人的に一作目はヒッチコック風の色彩やエレベーターの中が丸見えになるというデ・パルマらしさが随所に出ていて、それがすごく楽しく、何回か観てる程度には好きである。作品の内容には合わなかったような気もするが、まぁそれはトム・クルーズの指示もあったかもしれない。それが証拠に二作目になると、鳩や二丁拳銃、スローモーションなど監督に抜擢されたジョン・ウーテイストの雨あられ。実際トム・クルーズは「あなたのスタイルで好きなようにやってほしい」と注文したとか。三作目は最悪で個人的にこのシリーズもこれで打ち止めかなと思ったものだった。そもそもその前の二作も見終わったあとに心の底から「おもしろかったなぁ!」となったかと言われると「うーん」と奥歯にモノがはさまってしまうのであった。

ところが懲りずにトム・クルーズは『ゴースト・プロトコル』なる四作目を制作。正直、三作目がまったくおもしろくなかっただけに今作もかなりフラットな気持ちで観に行ったのだが、四作目にしてやっと心の底から「おもしろかったぁ!」と言えた。それくらい娯楽映画として申し分なかった。

ストーリーは今までのミッションが全然インポッシブルじゃなかったくらいインポッシブルなもの。訳あってロシアの刑務所にいたイーサンは、核弾頭起爆コードをクレムリンから盗み出せという指令を受け脱獄。チームを組み、クレムリンに潜入するものの、そこには先客がいて、その先客が起爆コードを先に盗み出し、さらにクレムリンを爆破してしまう。その爆破に巻き込まれたイーサンだったが、彼が来ていた変装用のジャケットのせいで地元の警察から犯人扱いされ、その情報がアメリカに渡り、キューバ危機以来の冷戦状態に陥ってしまった。そこで大統領はIMFとの関係を切り、彼らをクレムリン爆破の容疑者とした。そんな彼らに与えられた指令はIMFのバックアップがないまま、核テロを阻止せよというものだった……

『ゴースト・プロトコル』は映画的興奮が濃縮されたシークエンスのつるべ打ちだ。ひとつのアクション映画にひとつある大きな見せ場をグツグツ煮詰めて、濃厚にし、それをフルコースとして前菜からデザート、最後のグラッパまで提供するような極上のエンターテインメント。とにかく2時間10分の間、余計なドラマは一切なし。彼らの過去などはすべてセリフでさっと言わせ、隙間なくアクションを入れていく。そのシークエンスの概要を説明すると魅力が半減するのでここでは言及しないが、あっと驚くアクションの連続でそれだけで映画が出来ているという感じ。このシーンをやりたいからロシア。このシーンをやりたいからドバイという感じで、舞台もアクションシーンのために変わっていくくらいすさまじい。

監督は『Mr.インクレディブル』や『レミーのおいしいレストラン』のブラッド・バード。CGアニメならではのおもしろさを映像に出すかと思いきやこれがどうして後期フランケンハイマーのような渋い演出で映画全体は才気みなぎるというよりオールドな雰囲気。オープニングクレジットはさすがに凝っているものの、それ以外はわりかし肉体的なアクションにこだわっている節があった。アクションシーンのつるべ打ちと書いたが、サイモン・ペグのキャラクターがしっかりと緊張と緩和を演出。ハイテクなだるまさんがころんだなど、ドタバタした笑えるようなシーンが多いのも特徴で、観てても緩急があり全然疲れない。この辺が監督の手腕として特出しているように思えた。

アクションシーンで映画を構築してしまったために設定にかなりムチャがあり、特にハイテクマシーンが次々と壊れていくというのは「これから見せ場が待ってますよー」という前フリのようでもあり、少し気になった。あと最初にクレムリンに侵入した敵はなぜイーサンの動向が分かっていたのかというのも結局謎のままだったし。

まぁ、その辺もきれいさっぱりとアクションシーンで洗い流してくれるくらいのノンストップな作品。これは映画館の大きなスクリーンで見る価値が充分にある。インタレスティングという意味の「おもしろい」しかない作品なので自信をもっておすすめしたい。あういぇ。