トムのシネフィル的嗅覚『アウトロー』と『オブリビオン』

日本では今年公開された『アウトロー』と『オブリビオン』をレンタルDVDで鑑賞。

トム・クルーズという役者にはまるで興味がなかったのだが、あれ?もしかしてこの人こちら側の人間なんじゃないの?と思ったのは自身が制作した『M:I-2』の監督にジョン・ウーを抜擢したとき。

ジョン・ウーは「興味はあるけど撮り方がわからない。コンピューターは嫌いだし、特撮は得意じゃない。前作は素晴らしかったけど、続編を撮るのは好きじゃない。同じスタイルにできそうもないし、それにぼくにはぼくのスタイルがある」とのべつまくなしに理由をいって断ろうとしたが、トム・クルーズから「あなたのスタイルが好きだ。特に『狼/男たちの挽歌・最終章』がお気に入りだ。ぼくはこのシリーズを一本ずつ違う監督で、違うスタイルで作りたいと思っている」と言われ、全面的に脚本をリライトするならという条件で引き受けた*1

これ以前にポール・トーマス・アンダーソンの『マグノリア』に格安のギャラで出演したり、キューブリックの『アイズ・ワイド・シャット』に夫婦で出たりしていたが、それはあくまで映画俳優としての格がほしいだけかと思っていた。実際はそういうところがあるのかもしれないが、『コラテラル』は『KAMIKAZE TAXI』を元にしてるなんて噂があったり、スペイン映画の『オープン・ユア・アイズ』を丸々リメイクして自分で演じてみたりとか、よくよく考えれば映画好きの大スターが、自ら作品をプロデュースし、好きな監督にお願いして、無邪気にいろんなジャンルに手をそめてるようにも見える。少なくてもぼくはそういう風に受け取った。実際、彼が関わってる映画は出来不出来は別としても興味をひかれるものがある。

そんな彼のシネフィル風味が存分に発揮されたのが『アウトロー』と『オブリビオン』だと思う。

アウトロー』はいろんなところで指摘されてるように、撮影からストーリーから、カースタントまで70年代アクション映画を意識したような作り。

冒頭の狙撃シーンは映画史に残るんじゃないかってくらいすごいが、これは『ダーティハリー』を彷彿とさせた。宇多丸師匠もタマフルで言及していたが、カーチェイスはあきらかに『ザ・ドライバー』や『フレンチ・コネクション』であり、バイオレンスにしてもわりと「見せてる」映画でドン・シーゲルあたりが好きな人にはたまらないと思う。

ナイフ一本で敵陣に乗り込んだり、結局事件の真相が全部明かされなかったり、あげくジャック・リーチャーというキャラクターが名無しのなにがし的扱いなのに、しっかりとした過去があったりと、おや?と思わなくもないが全体的にはかなり楽しめた。

オブリビオン』に関しても同じでこちらはSFというジャンルの代表作の断片を散りばめ、一本でSF映画史をまるまるなぞってみせる。

異星人との戦いで廃墟と化した地球は美しく描かれ、スケールこそデカいが、ほとんどトム・クルーズ砂丘のような場所で右往左往してるだけの実験精神溢れる作品だ。個性はないが、その個性のなさこそが作家性というくらいスッキリしていて、すべてが言葉で明かされず、曖昧にして終わるのも良い。

見終わって思ったのは、これトム・クルーズが出演じゃなかったとしたらどうなっていただろう?ということだ。

ハッキリいうと両方とも地味で、もしこれが無名な役者であれば集客が見込めるような映画ではないと思う。玄人ウケは良いかもしれないが、『ナイト&デイ』のようなトム・クルーズのかっこよさを求めて観に来た観客は肩すかしを喰らうのではないか(とはいえ『ナイト&デイ』もジェームズ・マンゴールドという渋い映画を作る人が監督している)。

もっといえば、これらはトム・クルーズが出ていなければもっと作品としておさまりがよかった……そんなことまで考えてしまった。トム・クルーズ自身が、トム・クルーズの存在が作品のトーンにそぐわないミスキャストなのである。

今年の24時間テレビでパンサー向井が「芸人なのにイケメンで人気が出てしまい、それがなければ売れなかったかもしれないが、売れたら売れたでそれが芸のジャマになって困る」というような悩みを吐露していたが、トムもある程度年齢を重ねてそのようなことを思ってるのかもしれない。シネフィルとしての嗅覚はかうけど、彼がスターであることがジャマになってる。よい作品にするためなら彼はでないほうがいい。

しかし、これらの作品はトム・クルーズがかかわったからこそ、ここまでのモノになっているというのはウソではないと思う。これがアンビバレンツであって、観る側としても悩ましいところなのだ。そういった意味で製作するだけして、出演しないこともあるブラピや息子を出すという名目でジャッキーを呼び『ベストキッド』をカンフー映画に作り替えたウィル・スミスはエラいっちゃエラいのだが……逆にトムが製作だけした作品がなんとも中途半端だったりして……

いやはや、映画を作るというのは難しいことである。

アウトロー [Blu-ray]

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*1:プレミア日本版2000年8月号より