先日、Twitterにてメーカーのアカウントが『菊豆』をBD化したくてしたんだけど、全然売れてない!みたいなことをツイートしていて、それがRTで回ってきた。
ついでに言います。自分がやりたくてやって、本当に売れてないのがチャン・イーモウの『菊豆(チュイトウ)』のBlu-rayです。そりゃイーモウの株が下がりに下がってるのは分かってます。だけどコレ、彼のいい部分が詰まった傑作だし、コン・リー、めっちゃエロいし、画質良いですよー! pic.twitter.com/RSQ87pKciG
— シネフィルDVD (@cinefilDVD) 2018年10月27日
そこで今更ながら『菊豆』がBD化していたことを知ったのだが、ぼくは当時そこそこ高かった『菊豆』をDVDで所有してるくらい好きで、チャン・イーモウの最高傑作だと思っている。『紅いコーリャン』でデビューしてからというもの彼は世界でも敵なしくらいのレヴェルで作品を撮り続けていたが、ツイートにもあるように才能が枯渇してるんじゃないだろうか?とぼくも思っていて、大ファンであったにも関わらず、彼から離れていたのは事実だ。
このツイートを見てから「どれ、そのうち久しぶりに『菊豆』でも観てみようかね」となんとなく思った数日後、仕事帰りに立ち寄ったブックオフにて『菊豆』のBDを発見!!3000円とちょっと迷ったが、これも何かの運命と購入。その夜、嬉々としてその報告をツイートしたら、恐らく検索で引っかかったのか「ぬー」という一言と共にメーカーのアカウントに引用リツイートされてしまった。中古で買ってしまってもうしわけ。ただ、ぼくがツイートしたことで思わず買ってしまいましたって人がひとりいましたのでお許しくだされ。
さて、その『菊豆』のBDだが、ホントに驚くほど画質がキレイで、メーカーが売れなかったことを嘆くのもわかるくらいだった。鮮明になったことでチャン・イーモウとヤン・フォンリャンの映像美学がより明確になり、セットも作りこまれているのがよーくわかる。なによりもコン・リーが全身傷だらけの姿を見せるシーンなんかは興奮度が高まった。スタンダードサイズだし、特典はないに等しく、音声が良くなったわけでもないので、ホームシアターを組んでる人にはアレだが、ファンなら買っておいてもいいと思えるくらいの商品であることは間違いないなと思った。実際買ってよかった。
で、久しぶりに『菊豆』を観たんだけど、これがやっぱりとんでもない作品で、いまなお古びないし、やっぱりチャン・イーモウの最高傑作だなとその想いを強くした(先ほど書いたように共作だけど)。
「禁断の愛を描いた官能的なドラマ」みたいな紹介をされているが、完全なノワールであり、設定はジェームズ・M・ケインの『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を彷彿とさせる。原作者が影響を受けているのかどうかというのはわからないが、雇用主の妻と不倫関係になったことで地獄の果てまで堕ちていくというのはM・ケインの影響で作られたコーエン兄弟の『ブラッド・シンプル』とも似ており、後年チャン・イーモウがリメイクしたのもなんとなく頷ける話なのであった。
しかし『菊豆』は大きくそれらとは違っている。
まず不倫関係になる妻が夫からDVをうけているということ。大概の不倫ドラマは自分勝手な行動で人様に迷惑をかけていて、それでも愛を貫き通すというのが多いのだが『菊豆』では、不倫する妻にそれなりの理由があるのである種共感できる作りになっている。むしろノワールであればその夫を裏切って不倫するのではなく殺害するという方向に発展していくのがセオリーであるが(『OUT』とか『容疑者Xの献身』とか『ナオミとカナコ』とか)、そうならないあたりも他とはちょっと違うところといえる。
さらにこのふたりは妻と不倫相手の男が叔母と甥という関係というのも特徴で(血はつながってない)、ある意味禁断の恋であるということ。不倫だけでも世間からつまはじきにされかねないが、それが親戚同士であるならば、なおさら関係を隠し通さなければならない。しかも舞台は中国の集落であり、噂は音速で広まってしまうので、普通の不倫ドラマよりもスリリングになる。
まぁあらすじを検索すればすべてが出てしまうのだが、そこから昼ドラ的といわれるようなドロドロとした展開が待っていて、先ほども書いたようにこの映画ではいわゆる殺人というのは最後まで起きない。それが起きたとき物語は終わりを迎えるが、この辺は是非本編を観ていただきたいところである。
これらのドス黒い内容をほとんど直接的に描かないのもすさまじく、改めて観て「ここまで描いてなかったのか!」と驚いたくらいだったが、それこそ『スカーフェイス』のチェーンソーや『レザボア・ドッグス』の耳切りみたいなもんで、勝手に脳内で補完していたということになる。染物屋を舞台にしたことで原色飛び交う圧倒的な色彩美をメタファーとして使っているのも素晴らしく、二度染物が水のなかに落ちるのだが、それを生と死の表現に使うあたりもうまい。
と、良いところを言い出したら枚挙にいとまがないくらいのクラシック。BDで観ることにより評価が上がる映画というのはいくつかあったが、この『菊豆』もそのひとつで完全にオールタイムベスト入り確定した。逆にこれで『紅いコーリャン』や『紅夢』をまた観たくなってしまった……
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