『ドライヴ』以上に観る人を選ぶ問題作『オンリー・ゴッド』

日本では来年の一月に公開される『オンリー・ゴッド(Only God Forgives)』をUS盤BDで鑑賞。

ある日、タイのバンコクでボクシングジムを経営し、裏では家族で麻薬ビジネスにもかかわっているジュリアン(ライアン・ゴズリング)の兄が殺された。ジュリアンの兄は売春をしていた少女を強姦して殺し、すぐにその少女の父親に復讐されたというのだ。その復讐を仕切ったのが、地元では“復讐の天使”と呼ばれている元刑事のチャン。しかしチャンは復讐を遂げさせたあと、娘への償いだと今度はその父親の腕を切り落とした。なんとその売春自体その父親の指示であり、他にも4人の娘に売春をさせていたのだ。事情を聞いたジュリアンは兄の復讐をためらうが、そこへ麻薬ビジネスの元締めであるジュリアンの母がタイにやってくる………というのが主なあらすじ。

昨年『ブロンソン』や『ドライヴ』で良くも悪くも日本の映画ファンを熱狂させたニコラス・ウィンディング・レフン監督の新作で、今作でもライアン・ゴズリングとタッグを組む。

とりあえず観た印象を一言でいうならばタイを舞台にし、カーチェイスを抜いた『ドライヴ』

セリフは極限まで削られ、キャラクターの動作も削られ、小津のようなフィックスで切り返すショットが多く、そのへんはシネフィルっぽいが、原色が埋め尽くすセットは監督がオールタイムベストと公言する『東京流れ者』のようでもあり、他にもシンメトリックな映像でホラーっぽくなるのは『シャイニング』や『アイズ・ワイド・シャット』で、唐突なバイオレンスは『ワイルド・アット・ハート』や『ロスト・ハイウェイ』。さらに『ドライヴ』のときも指摘したが*1ティーザーにあるような斜がかかったネオンな色彩は『天使の涙』のようで、それらが同時に押し寄せてくる感じ。そこにスラッシャー映画のような強烈なゴア描写が畳み掛けてくるなど、やっぱり一筋縄ではいかない変な映画で、監督は「全編極東が舞台で、現代のカウボーイヒーローが登場する西部劇風スリラー」をやりたかったらしいのだが、作品自体はホドロフスキーに捧げられており『エル・トポ』っぽいものを目指したのかもしれない。ゴズリングも「私がこれまでに読んだ脚本の中でも最も奇妙」と言ってるくらいだし*2

血で血を洗う復讐劇なので、人物の関係性などは多少複雑に設定されてるものの、その説明部分は冒頭10分間で終わり、あとは『ドライヴ』のようにワンシーンがぐーっと引き延ばされるように演出される。さらに夢と現実も交錯する。しかし映画は90分以内であり、この辺の時間感覚/奇妙な編集にノレるかどうかで評価は分かれるはずである。『ドライヴ』の中盤に、狭い廊下をゆっくり歩き、ストリップ小屋の楽屋で素っ裸のねーちゃんたちが無言で見守るなか男を叩きのめすというシーンがあったが、あれが90分間続くみたいな感じといってもいいかもしれない。

主演のライアン・ゴズリングはあいかわらずのかっこよさで寡黙な男を演じているが、今回それ以上に目立つのがチャン役のウィタヤー・パーンシーガーム。その存在感は独特で彼の「カラオケ」が非常に重要なのだが、この辺は是非本編を観ていただければなと思う。実際『グラントリノ』みたいにライアン・ゴズリングが出てなかったら一体どうなっていただろう……

というわけで良くも悪くも『ヴァルハラ・ライジング』以降のレフン節が炸裂しているが、これは『ドライヴ』以上に観る人を選び、賛否両論は必至。彼の作品がダメなら確実にダメだろうが、彼の作品が好きだとしてもこれには首を傾げる人も多いだろう。個人的にはかなり好きで、今年でいえば『ザ・マスター』 『スプリング・ブレイカーズ』 『ジャッキー・コーガン』 『コズモポリス』とかの枠。つまりこれらがダメだった人にとっても……という映画なのである。

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http://blog.livedoor.jp/notld_1968/archives/34299812.html

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*1:いますぐ抱きしめたい』という映画に似てると

*2:以上ウィキペディアから