新世代のサンプリングムービー『LOOPER/ルーパー』

LOOPER/ルーパー』鑑賞。

未来からきたギャングを処刑するルーパーという職業(と言ってもマフィアの下っ端)についてる男が主人公。金をしこたま貯め込み、そのお金でフランスに行こうと夢見ている彼だったが、ある日、いつものように処刑をしようと指定の場所に立っていたら、そこに来たのは未来からきた自分だった……というのが主なあらすじ。

ざっと書いたが、実はストーリーはかなり複雑で意図的に明かされない部分も多く、思っていた方向には行かず、バンバン変わっていくので多少置いてけぼりをくらいそうになるものの、基本的には『ターミネーター』と『12モンキーズ』と『シェーン』と『AKIRA』と『バタフライ・エフェクト』が全部一緒になったようなサンプリングムービーで、その見せ場が全部一気に押し寄せてくるような感じ。壁に貼られたチラシの前で銃を構えるなど、ゴダールのようなシーンもある。『マトリックス』以降のなにがしという評価も見受けられたが、個人的には『インセプション』に近い印象を持った。構成でいえば昨年日本で公開された『ドライヴ』にも似ている。

前半。平均したら2秒ないんじゃないかというくらいのすさまじいスピードでカットが割られ、まばたきしてるあいだにも重要なシーンがポンポン出てくる。基本的には静止画が多いのだが、要所要所でカメラがグリングリン動くので、何気ないシーンでもテンションは高い。手法としてはヴァーホーヴェン映画と同じだが、後半は「SF映画……だよね……」というくらい牧歌的な雰囲気になり、そのまんま『シェーン』になるというジャンルレスな展開。それにあわせてカット割りも映像も落ち着いたトーンになり、最後の最後に爆発させるというシフトチェンジもうまい。クラシカルで斬新/新鮮、そして映画からの引用もたっぷりの見たことない不思議な映画だった。

確かにいろんな意味でいろいろ何か言いたくなる映画ではある。

まず、ジョゼフ・ゴードン=リヴィットとブルース・ウィリスが同一人物であるというのはさすがに無理がある。前者が特殊メイクをして、似せようとするなど努力は見られるが、いくらなんでも見てておや?と思うのは仕方がない。未来にいくにつれ、だんだんとブルース・ウィリスになっていくわけなのだが、そのシーンもここまでやったんだから納得してよ!と説得させようとしているようにしか思えない。フランスに憧れてる男が運命的な出会いを果たした女と一緒になるために上海にいったりするのも、それだったら冒頭のフランス語のシーンいらなくね?と思ったりもした。

しかしだ。それもこれも、この映画を成立するためのものだとしたら合点がいく。

『LOOPER』は原作のないオリジナルの企画である。あげく前作がコケてる監督の作品ともなれば、制作費を集めるのもひと苦労だろう。売れっ子になったジョゼフ・ゴードン=リヴィットが主役をやるというだけで莫大な制作費が集まるとは思えない。

ここからは想像だが、監督はこの企画を成立するためにはどうすればいいか?を必死で考えた。まず大スターの起用だ。インディペンデントな小品にも安いギャラで出演するブルース・ウィリスに声をかけたのはまさに必然的な選択ではないだろうか。その作戦は見事に決まる。実際ウィリスはこの脚本を読み『パルプ・フィクション』を読んだときと同じ衝撃を覚えたと言っているのだ。さらにアメリカと共同出資した中国への配慮。当初はフランスへ行きたいという主人公をあっさりと上海へ行かせるあたり、映画を成立させるための目配せだとしたらそうとう気がきいている。

つまりだ。この『LOOPER』という作品は作家性を充分に発揮しつつ、こういう企画を成立させるためには、いろんな手段をうまく使い、それも映画の中に組み込まないとダメだよということを後世に伝えてる映画でもあるのだ。いわゆるスポンサーへの配慮というヤツである。

こうやって指摘こそしたが、ハッキリ言って、それがこの映画のおもしろさのノイズになってるとは思えない。むしろマイナスにもなっていない。実際『LOOPER』はライアン・ジョンソン監督の作家映画としても娯楽作としても語られる秀逸な作品だと言える。

というわけで、そういったスポンサーへの配慮すら考慮した『LOOPER』は、そんなことを気にしなくても大変おもしろく、どういう風に物語が転がるのか分からない作品になっているので、是非、万人におすすめしたい。『ブレードランナー』のようなSF映画を期待すると肩すかしを喰らうかもしれないが、地味な映画だということを頭に入れて観にいくと良いかも。