ご都合主義をすべて笑いに『テッド』

『テッド』を吹替版で鑑賞。

友人はおろか、いじめられることすらない超孤独な少年ジョン。彼はクリスマスに両親からテディベアをプレゼントされ、はじめての親友とも呼べる存在に救われることになるが、ジョンは「このテディベアが喋ってくれればいうことないのになぁ…」と無理な夢をみるようになる。するとその願いが叶い、ある朝、テディベアに命が吹き込まれた。たちまちその存在は全米で話題となり、テディベアの「テッド」はテレビに引っ張りだこの人気者になるが、あくまでこれはイントロダクションであり、本編はその27年後からはじまる。かわいがっていたぬいぐるみに命が!ってことで、それこそ『崖の上のポニョ』のようだが、あのふたりが27年後、中年になっているとしたら?ということをそのまんまアメリカでやってるような作品である。

予告編からも分かる通り、ハイ・コンセプトな作品であるが、主人公には愛する彼女がいて、「私とくまのぬいぐるみどっちが大事なの?」という例のくだりになり、その辺はどっかで見たような感じで予想の範囲を超えない。それこそある評論家が「独創性に欠ける」と言ったがその通りで、よく考えたらその設定は『ザ・マペッツ』ともまるかぶりなのであった。

超が付くほどの愛すべきボンクラが主人公であり、テッドとの関係性は『ショーン・オブ・ザ・デッド』のあのふたりとまったく一緒で、言ってしまえば、あの映画からゾンビを抜いたらものの見事に『テッド』になるし、人間ではないが家族ともいえる他者という存在とどのような関係を築くのか?という意味では『E.T.』や『トランスフォーマー』にも似ている。

セリフは見事に下ネタばかり。ふだんなら「ピー」が入るような会話もバンバン飛び出し、あげく、視覚でのお下劣さも天井を突き抜けている。オブラートに包まない町山智浩監修の吹替は見事に決まっており、まさに適任。テッドの声を担当した有吉弘行も適役で、バカヤローこのやろーなどの悪態や下ネタもほぼテレビのまんま。やや口ごもってる感じもぬいぐるみであるということとマッチしてて良かった。

さて、この作品。過去にさかのぼるシーンがこれみよがしにあるわけではないが、80年代のポップカルチャーの引用が随所に差し込まれ、その年代史を物語の中にうまく組み込んでいる。そういう意味でぼくは去年公開され熱狂的な人気を生んだ『サニー』と似ているなと思った。

『サニー』はそのポップカルチャーや韓国史と平行してあの頃の輝きをもう一度!が描かれる作品であったが、『テッド』はその楽しかったときから抜けきれずに、そのまんま悪い意味で大人になってしまった人のお話である。この二作に共通するのは、純化されすぎてる物語であるということだ。

実はぼくは『サニー』という映画をそこまで買っていないのだが*1、その理由と同じように『テッド』も悪人と呼べる人はひとりも出てこず、映画のなかで「奇跡」と呼んでることが二度も起き、あげく、実は超有名アーティストと知り合いでしたーという超都合がいい展開が待っている(その人は本人役で登場している)。さらには主人公にたいしてミラ・クニス演じる彼女はかなり甘く、叱責するのはその彼女だけだったりもするが、結局主人公のギャグでもっていつもお茶を濁される始末だ。そもそもレンタカー屋の店長のポストが与えられているだけ、そこまで底辺な生活をしているわけでもなく、テディも元々人気者だけあり、どこへ言ってもうまく立ち回っている。ラストでテディが!!!というのも『サニー』と同じっちゃ同じであるが、いわゆるそういう主人公たちにふりかかる「試練」がこの映画にはひとつもない。

しかし、『テディ』はこれを全部ギャグにすることによって、完全に笑いへと昇華している。テッドが職場で昇進するのもご都合主義だが、徹底したギャグになっているので(しかもかなりシュール)、そこまでノイズになってるわけではない。この辺が笑える要素を加えた映画とコメディの違いであり、強みであると言える。故に『テディ』はぼくにとっての『サニー』であり。『サニー』を熱狂的に愛する人と同じ理由でこの作品が好きである。純化されすぎたその世界で主人公とテディは楽しそうなやりとりを延々繰り広げる。パーティーには終わりがあるからこそ楽しいが、その友情はもはや永遠。それを邪魔するものはこの作品のなかには存在しないのだ。

というわけで、かなり私情も入っており、かなり甘めではあるが、普通に楽しめる作品ではあると思うので、レイトショーあたりでビールを飲みながらごゆるりと観ることをおすすめ。ぼくが観た回はカップルだらけだったが、それでもどっかんどっかん沸いていた。ド下ネタでもキャッキャ笑っていたぞ。ヒットもしてるみたいだし、すごく良いことだ!!!断固支持である。

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*1:むしろ嫌いである。作品の出来はとてつもなく良いということだけは言っておく