『ソナチネ』はビートたけしの実体験が元になっていた!?
1月27日に放送された「日曜ゴールデンで何やってんだテレビ」がすごくおもしろかった。
第一回目の放送は石橋貴明相手に、元テレのフリップ毒舌芸をそのまんまやっていて*1、そのくだらなさ/変わらなさに感動を覚えたが、その後、若手のコント師にお題を与え、3時間でコントを作ってもらうという企画がメインになり、それを見てビートたけしが評するという、どっかで見たような緩い番組になってしまった。
ところが、今回は芸人・ビートたけしの足跡(そくせき)を石橋貴明と共に追うというもので、ゲストは島田洋七。ふたりが漫才ブームのときによく遊んだという六本木のお店をめぐり、そこでの思い出話に華を咲かせる待ってましたの神企画。バブル全盛期だったこともあり、とんでもない金の使い方をしていたというエピソードなど、非常に興味深く拝見した。
その中で、フライデー襲撃事件の話になり、事件後の約半年、判決が出るまでたけしは何をしていたのか?というくだりになったとき、驚くべき事実がVTRによって紹介された。
なんと事件後、たけしはひとり沖縄の石垣島に渡り、コテージの中で身を隠していたというのだ。
唯一、そのときに沖縄に呼んだのが、軍団のメンバーではなく、親友である島田洋七。本人曰く「ひとりで何もやることがない。ねーちゃん呼ぶわけにいかないし、ゴルフしてたら目立ってしょうがないから」と電話で呼び出したらしいのだが、たけしはあまりにもやることがなかったのか、島田洋七が沖縄に着いたときは貝殻を集めてゴルフクラブでその貝殻をひたすら打っていたという(またそれが絵になってるんだわとうっとりした表情で語っていた)。
この話を聞いたとき、すぐに思い出したのが、北野武監督の代表作『ソナチネ』であった。
『ソナチネ』のあらすじはこうだ。ビートたけし演じる村川というヤクザが組長に「友好関係にある沖縄の組の抗争をなんとかしてこい」と命令される。ところが村川が来たことにより、収拾つくどころか抗争は激化。刺客たちに狙われてしまい、弟分を数人殺された村川は海辺の廃屋に身を隠すことになる。
さて、逃げ延びた村川たちはこの廃屋で何をするか?ひたすらヒマをつぶし続けるのである。
『ソナチネ』は監督自身もいちばん好きな作品だと語り、世界的な評価も著しく高い。ある種の集大成的な作品でもあり、逃亡した先々で遊びつづける男たちというプロットは『BROTHER』や『HANA-BI』にも受けつがれている。
元々『ソナチネ』は『沖縄ピエロ』という仮タイトルがついていたが、そのプロットはどっちかというとルネ・クレマン監督の『狼は天使の匂い』に似ていると思っていた。ところがだ。目的を失ってしまった村川たちが、東京にも戻れず、もしかしたら殺されてしまうかもしれないという状況の下、沖縄の海辺で延々とヒマをつぶすというのは、明らかにフライデー襲撃事件後のたけしそのまんまである。
他にも洋七は「海にヒザまでつかりながら沈む夕陽を見ていたら、漁師が近づいてきて、生きてるタコを渡された」というエピソードを話していたが、これも釣り師の恰好で近づいてくる殺し屋のモデルだとしたら納得がいく。
「どうでもいいと言いながら、本当は悩んでいたと思う。テレビ復帰出来るのかな?とかね。事務所もあるし、弟子もいるし、俺が働かなきゃって思ってたんじゃないのかな」というのは洋七の弁だが、そういうなんとかしなきゃと思う反面。すべてを投げ出して、一応の責任を全うしたあとに死んでしまいたいという気持ちもどこかにあったのかもしれない。それをそのまんま映画という媒体にぶつけたのが『ソナチネ』であり、奇しくもそれが北野武の代表作になってしまったというのは興味深い事実である。今までこういう話はどこにも出てきてなかったので、なるほどと関心したのだが、もしかしたらこれってビートたけしファンの間では有名な話なのかな……
ちなみに、番組はその後、ゲストに爆笑問題が登場。立川談志とのエピソードが語られていたが、これも大変素晴らしかった。ビートたけしと石橋貴明という大物が絡むというだけでお笑いファンにとっては事件なのだ。ヘタな企画よりもこういった素材を活かすようなことをこれからもしてほしいと願うばかりである。
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*1:TBSのニュース番組でも同じことをしている