大きなお世話だこのやろー『DOCUMENTARY OF AKB48 NO FLOWER WITHOUT RAIN 少女たちは涙の後に何を見る?』

『DOCUMENTARY OF AKB48 NO FLOWER WITHOUT RAIN 少女たちは涙の後に何を見る?*1』を鑑賞。いわずとしれたAKBドキュメンタリー映画の第三弾。

2013年2月3日の時点でいうのもアレだが「峯岸坊主騒動も含め、映画の日で初日の初回、さらに舞台挨拶付き上映」という限定された状態でいえば、文句なしに今年のベストワンである。恐らく作品としてこれよりも素晴らしい映画はたくさん公開されるだろうが、良い意味でも悪い意味でも「1000円で得られる映画体験」としての衝撃でいえば今年はこれを超えるものはないかもしれない。コストパフォーマンスの高さは異常ともいえる。

例によって、NHKで一時間のドキュメンタリーを放送し、その翌日に映画公開という流れ。

前作はAKBを知らない人が観ても楽しめる作りになっており、その過酷さ、残酷さを余すとこなく映し、各方面から「まるで戦争映画のようだった」と評されたが、今作は完全にいちげんさんお断りのつくりで、もうしわけ程度のナレーションやテロップが入るものの、ホントの意味でこの作品を心の底から楽しむには予備知識がある程度――――いや、かなり必要になる。

確信犯的に問題作に仕上げており、AKB史としては過去最高ともいえる激動の2012年を「前田敦子卒業」と「恋愛禁止を破ったことによって罰せられるアイドルたち」に絞って編集。それ以外のことはNHKを見てねーと言わんばかりの削ぎ落し方。前作はエンターテインメントとして見せ場があったが、今作にそれはなく、残酷さのみを極限まで純化させてこちらにぶつけてくる。前作が『アウトレイジ』だとすれば、今作は『アウトレイジ ビヨンド』であり、派手さは減ったが、怖さは増えたという感じ。

すべてのカットに意味があり、数秒のワンカットが持つ情報量は『ウォッチメン』のひとコマに値するのではないか?というくらい多い。

例えば「あれだけ運営から推された期待のエースが、その推されっぷりからアンチが大量に発生し、総選挙で惨敗し、選抜入り出来ず、精神が崩壊する」とか「素材としては豊作だった新人のみで組まれたチーム4が、前田敦子卒業に伴い、パフォーマンス力のある先輩の側でもっと勉強させたいという運営の思惑によって解体される」とか「同じ中学で一緒に登校もした女の子がアイドルになり、センターとして輝いてるのを見て、私も入りたいとオーディションを受けたが、選抜に入ることは一回もなく、苦労を重ね、背中を見続けながらも非選抜として踏ん張っていた、そんな矢先に憧れだった彼女が卒業を発表した!?」など、くどくど書かないと分からないようなことを説明しないまま、すさまじいスピードで見せていくのである。それこそ「原作を読まずして『ウォッチメン』の映画を観たらどういう感想を持つのだろう?」というような印象を持った。

しかし、それくらい圧倒的な情報量のカットが別なカットとつながることで、意味がどんどん膨らんでいくというのを改めて体験することにより「映画」の基本を見せつけられたようだったし、そういった意味ではドキュメンタリー作家として高橋栄樹監督の手腕が冴え渡っていたと言ってもいいだろう。

今作のテーマはずばり「アイドルと恋愛禁止」についてである。

「映画を見ていて運営にたいする怒りとか、これ以上やったら死人が出るんじゃないか?という構造に怒りがドンドン沸いてきたが、西部ドームライブで疲労困憊だった高橋みなみがアンコールまでの時間を引き延ばすために「走れー!」って言いながら走る姿を見て“大きなお世話だこのやろー”ってアイドル側から言われた気がした」


これは前作のドキュメンタリーを見たコンバットREC氏が、タマフルの放課後ポッドキャストで語っていたことを要約したものだが、ずばり今作はそれの「恋愛禁止」バージョンであり、それについての「是か非か?」にたいし、アイドル側から「大きなお世話だこのやろー」とハッキリ突きつけてくる。

総監督に任命された高橋みなみは「恋愛禁止」のスタンスについて、まぁアイドルである前に人間だから仕方がないよね…というような感じなのだが、松井珠理奈篠田麻里子の「覚悟」がすさまじく、ここだけでもこの映画を観る価値があるといってもいいくらいで、次々に雑誌やラジオでは語られないような本音がバンバン出てくる。過去にスキャンダルで解雇された菊地あやかの発言や、峯岸みなみと同期で同い年の元・メンバーである平嶋夏海まで登場し、そこまで踏み込みますか!?というところまでアクセル全開で突っ走る。そこは前作以上であり、ハッキリ言って度肝抜かれた。すごかったという言葉しかでないほどだ。峯岸みなみ丸坊主になったことが世間ではかなり騒がれたが、それすらも前フリになっているような内容であった*2

しかも映画は「スキャンダルで辞めた者」にたいし「それはそれでひとつの人生であり、もしかしたら恋愛を選んだ方が幸せになれるのかもしれない」という視点もしっかり入っており、そのバランスにおいても抜かりはない。

これだけでも満腹で元はとったも同然なのに、今作での最大のサプライズは映画の中でしれーっと板野友美が卒業を発表したことである。

これはホントに申し訳ないが、初日の初回上映を見た人のみが体験出来たサプライズであり、いかにも秋元康らしい仕掛けで、試写会のときにはこの映像を封印していたというからその徹底ぶりには恐れ入る。

というわけで、そういう作品の内容とは関係ない部分での「体験」も込みでの評価になるが、逆に何も知らない人がフラットに観たらどういう反応を起こすのかが気になる。ぼくはこの映画をおもしろいと思っているのかなんなのか未だに分からない。ただ、衝撃を受けたということに関しては間違いないので、同じようなスタンスの方は絶対に観にいくことをおすすめしたい。

*1:タイトルなげえ、コピペって便利ね

*2:ちなみにぼくは丸坊主&動画配信は絶対に大人が止めるべきだったというスタンスである