大島優子をロイ・バッティのように描く『DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?』

『DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?』を観た。

「AKB映像記録のマエストロ」である高橋栄樹の手腕が「大島優子卒業延期」という危機的状況において完璧に発揮されており、取捨選択は難しかったはずだが、今回は「こういうのが観たかった」という意味でもほぼ完璧。ゴリ推しなメンバーはなし、ある程度のナレーションは入るものの、各メンバーの心情を吐露するような個別インタビューもなし(撮影してたかもしれないが)。ただただそこで起こったことを時系列順に並べた「だけ」のシンプルなドキュメンタリーになり、前作、前々作以上にAKBというブラック企業の門を叩いた少女たちが、先輩の卒業、運営の思惑に翻弄され泣き崩れる二時間。AKBでいることの覚悟や恋愛禁止とは何か?みたいな明確なテーマ、第三者的な思想も一切ない。

ホントのホントにいちげんさんお断り仕様であり、ワイドショーで紹介されるくらいの知識では誰が誰だかわからず、しかも前作までキッチリ観てないと完璧には理解できないつくり。「AKBドキュメンタリー映画、第四弾!」と銘打たれているが、どっちかというと前作からの続きのような感じで、例えばポスト前田と言われながらも卒業を選んだ城恵理子のその後はテロップとライブ中のコメントだけで説明されたり、3.11の被害にあった岩田華怜や指原のスキャンダルに意義申し立てた菊地あやかなど「もう前作でキャラの説明したからいいっしょ?」と、ドラマをどんどん推進させていく。

もちろん前作、前々作同様かなり楽しんだが*1、今回個人的に気になったのは2013年の紅白から大島優子卒業までの約半年間をピックアップしたこと。

いままでは一月の終わりから二月のあたまくらいに公開し、二時間で一年間を総括するような形をとっていたAKBのドキュメンタリーだが、今年は大島優子の卒業が三ヶ月以上伸びたこともあって、前作の公開直前に起きた峯岸坊主騒動、指原の総選挙一位、社会現象となった「恋チュン」、板野、篠田の卒業、さらには珠理奈のジャンケンといった2013年をほぼなかったことにしてしまった。これはいただけない。

タマフルのインタビューから引用させてもらうが、これについては監督自身、この半年間で一本分に値するできごとが多かったこと(例の事件しかり)、そして大島優子にスポットを当てたかったようで、ひとりの少女が昇天して、神になるように描いた前作とは真逆に、人間に還ってく話にしたかったらしく、それはサブタイトルの「The time has come」に象徴されるように、大島優子をロイ・バッティとして描いたとのこと。奇しくも大島優子は「普通の女の子に戻りたい」ではなく「普通の女の子だった私たちを見つけて応援してくれて、皆さん、本当にありがとうございました」と卒業時にいっていて、8年間の経験を得たうえで、人間:大島優子に戻っていく瞬間を最後に捉えており、そのへんの監督の「大島優子推し」的発言は非常に興味深かった。

しかし、今回ドキュメンタリー映画第二弾のときからNHKで放送されてる一時間の番組「A to Z」を、別枠で、しかも二週に分けて、映画が公開されたあとで放送するということもあり、「もうここで2013年のことは描いたので映画はそのあとの大島優子卒業発表から卒業までやりまーす」という前置きがなかったことで、映画だけ観ると非常にモヤモヤする。セル版ではこれがセットになって発売されるはずなので、ソフト化されるのを待ってる方は「A to Z」から観るのをおすすめしたいところである。

ほかにも民放で大々的に放送した総選挙のくだりはもっとバッサリでもよかったのでは?とか、ホントに細かい部分で気になるところはあったものの(故に“ほぼ”完璧と書いた)、ストックが膨大すぎるがあまり、どう編集していいか?の答えも見えないなか、カメラを自ら回し、時間も限られた状態でこれだけのものにした高橋栄樹監督には最大限の敬意を払いたい。やはりなんだかんだでおすすめだ。

*1:とはいえ、やっぱりコンバットREC氏じゃないが、こんなことアイドルにさせていいのか!?こんなに傷つけてという怒りも同時に沸いてきてアンビバレンツ