小学生の時に金曜ロードショーで観たい感じ『ダイバージェント』
『ダイバージェント』を試写会にて鑑賞。
いわゆるディストピアものであり、集団的自衛権が行使されてしまった今だからこそ観たほうが良いような内容。平和な街で政権を崩壊させるために戦争をおこそうと企てる権力者と、それに対抗すべく突然変異的に生まれた「異端児(ダイバージェント)」についての物語。
非常に困った作品であった。
というのもこれといった個性がなにひとつなく、普通は良い映画にしろ悪い映画にしろ「あそこがああだったよな!あそこはどうかと思う!」など、一緒に観にいった人とひととおりの盛り上がりをみせるものだが、一切それがなく、ただひたすらに「うーん……うーん……」を繰り返すしまつ。
ストーリーは『THX-1138』や『未来世紀ブラジル』、アラン・ムーアの『Vフォー・ヴェンデッタ(映画の方ではない)』よろしく、管理社会だの全体主義がどうしたのいわれてる中から、これはおかしいと主人公が気づいて、それに立ち向かう的なもの。しかし、元というか意識したのは恐らく『マトリックス』だと思われる。
最近『TIME』という作品があったが、あれの二番煎じ感が強く、さかのぼっていけば『ガタカ』という傑作もあって、よくよく考えると三番煎じ、四番煎じ的な感じがあり新鮮味は一切ない。だからといって「いよっ!待ってました!こういうのが観たかった!」という様式的なものもこれまた一切なく、ありとあらゆる面で燃えさせてくれない。
オープニングクレジットは半分廃墟と化したシカゴの風景に文字が溶け込む“アレ*1”であり、これまた最近よく見受けられる。イスに座って仮想現実のなかに入るというのも散々見てきたし、ちゃちなパルクールも最近の流行りへの目配せにしか感じない。「ちょっとカンフー入れてみようか」というようなしょうもない格闘シーンがあり、「そのシーン必要だったか?」という洋ゲーっぽい銃撃戦があり、さらには『パシフィック・リム』のロボなしという感じで、互いの意識をシンクロさせる、いわゆる“ドリフト”に近いようなシーンも散見される。世界観に関しても『トゥモロー・ワールド』のようなハッとさせるセンスもなく、ただただしょぼい。
原作があり、それを忠実に映像化したらしいが、だとするとこれ原作そのものに問題があるのではないか?と思ってしまう。作者がそういう世代なのかもしれないが、一番の問題はサンプリングムービーであるにも関わらず制作側からの愛が一切感じられないこと。「とりあえずこういうの放り込んでおけばウケるんでしょ?」といわんばかりですべてが適当。引用元もたかが知れてて、温故知新というものがまったくない。故に映画全体からもパッションが感じられないのだ。
ただ、冒頭でも書いたように困った作品なのは、2時間20分という長尺であるにも関わらず、なんとなく飽きずに最後まで観れてしまうという点(長すぎることにかわりはないが)。良いように汲み取れば「映画のなかに何から何まで入ってる」という言い方もできるくらいで、原作者が脚本にGOサインを出したのはこれが理由なのではないかというくらい、細かいシーンでの説明、運び方はうまいっちゃうまい――――その割に後半、ものすごい急ぎ足で物語がすすんでいくし、設定になっとくいかない点が多々あるのだが……→注釈にて軽くネタバレ*2
恐らく「映画」というものを知らない小学生が観たら大興奮するはずだが、大人になってからいろいろ知ると「オレが子供の頃に観たアレってたいしたことなかったんじゃん……」となること必至。1800円で観る価値はないが、BSあたりでしれーっと放送した時に100分くらいのバージョンで、さらに吹替で観たい、そんな映画。実際、日本/アメリカ共に配給は『ハンガー・ゲーム』の会社と同じなので、そういう感じだと思っていただければこれ幸い。まぁ『ハンガーゲーム』観てねぇんだけど。
- 作者: ベロニカ・ロス,河井直子
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