巧みな編集によって隠された「壮絶」さ『AKB48 よっしゃぁ~行くぞぉ~!in 西武ドーム』

ちょー遅ればせながら『AKB48 よっしゃぁ~行くぞぉ~!in 西武ドーム』のDVDを購入して、全部観た。

発売されたのは約1年前だが、Amazonマケプレでかなり値下がりしてるのを発見し、速攻で1-Click購入した。

購入に食指が伸びなかったのは、BSで3時間半ものダイジェスト版が放送されたことと(当然ながらダイジェスト版は高画質であり、わざわざ画質が悪いDVDを大枚叩いてまで買うことはないだろうというのもあった)、今年の二月に公開されたドキュメンタリー映画でそのライブの裏側をこれでもかと見せていたからである。まぁこのふたつをおさえておけばだいじょぶっしょ?って感じで、購入しなかった人も多かったのではないだろうか。

さて、この西武ドームライブだが、ダイジェスト版やドキュメンタリーを繰り返し観てきた者にとっては衝撃的な内容となっていた。むしろ、これを観てから映画に望んでいたら、印象が変わってしまうかもしれないし「え?」という違和感を覚えるかもしれない。一応、ぼくが見てきた/聞いてきた感想のなかにそれはなかったので、映画の予習のためにこのDVDを買ってから観た人というのはそこまで多くはないのかもしれない(ヲタ以外で)。

実は今年公開されたAKBのドキュメンタリー映画『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』を観て不思議に思ったというか、謎だったのが「西武ドームライブの三日目はどういう出来だったのか?」ということだった。

映画の中でいちばん盛り上がる部分として扱われていたのが西武ドームライブのシーンであり、展開としては一日目がリハーサル不足や進行が頭に入ってないスタッフのせいで最低のライブになってしまい、秋元康からお説教を喰らう。たかみなは責任を感じて、どうすればいいかわかんないっすと秋元康に謝りに行く。たかみなが今度はメンバーに活をいれ、ドームの外で深夜まで練習して一日目が終わる。二日目は前田敦子が一日目の失敗からプレッシャーを感じ、朝一で過呼吸になってしまい、もしかしたら出れなくなってしまうかもしれないと他のメンバーが急遽前田敦子のポジションの振り付けを覚える。本番直前、各チームが円陣を組むなか、倒れていたはずの前田敦子が無言で登場、そして本番。熱中症でバッタバタと倒れていくなか、なんとかライブをこなすメンバーたち。新曲『フライングゲット』を披露するときになると、センターである前田敦子が再び過呼吸になり、もしかしたら倒れるんじゃないかというギリギリのところで舞台に立つ。MCの間も過呼吸気味であり、なんとか落ち着かせようとするたかみな。おいおい大丈夫か?と思ってるなかイントロが鳴ると、ちゃんと笑顔でその曲のセンターをつとめる前田敦子。さらにライブは進み、ついには大島優子まで過呼吸で倒れ、たかみなも満身創痍。3分を予定していたアンコールまでのインターバルがトラブルで9分になり、なんとか時間を延ばすためにアドリブでマジすかの衣装に着替えて、登場するメンバー。そして、全員が倒れ込んでるなか、たかみなの「走れー」が登場し、ライブが終わる。最後には秋元康からの賛辞のことばとメンバーの感想……と、長くなってしまったが、これが、ドキュメンタリー映画で描かれていた西武ドームライブの概要である。

これ「だけ」を観る限りでは一日目の不出来を二日目で全部取り戻し、ライブは伝説となりました、めでたしめでたしという感じだろうが、映画では尺の関係もあったのか、肝心の三日目がスルーされているので、その概要がまったくわからなかった。むしろ三日目のほうが出来悪かったのか?など、変な邪推すらしたくらいだ。

ところが、今回このDVDを観て衝撃的な事実が判明した。それは実はいちばん壮絶だったのは三日目だったということである。

映画の中では二日目のように描かれていた「前田敦子が朝から過呼吸で他のメンバーが急いで振り付けを覚える」という部分は実は三日目の朝の出来事であり、バッタバタとステージ裏で倒れるというのもすべて三日目の映像で、なんと映画は編集によって時間軸がずらされていたのだった。

これはセットリストと特典のメイキング映像に映っている衣装などによって明らかになったことだが、よくよく考えてみると、朝からリハーサルに追われ、踊り倒し、本番も躍り倒し、ステージ裏はドタバタで、休む間もなく夜中まで練習。しかもこれが丸二日間。こんなことを三日目の朝も繰り返したら、体力も限界に来るのは当然である。当時、映画を観ていたぼくは「なんだよ前田敦子、たかだか一日目終えたくらいで過呼吸になんかなってんじゃねぇよ」と思ったが、あれはすでに三日目だったのだ。うーん、全力であやまりたい。

しかもメイキングによると、いちばん暑かったのは三日目であり、最も体力が失われている状態でいちばんの暑さが来る……そりゃバッタバタと倒れるはずだ。

それだけじゃない。三日目のセットリストは一日目、二日目に比べると明らかに負荷がかけられている。タマフルの座談会で「西武ドームは人災」と表現していたが、それはセットリストにも現れていた。

ディスク7枚目のメイキングを見るとよくわかるが、三日目のセットリストは一日目と二日目をシャッフルしたような曲順になっており、わりとチーム別やユニット、ソロとある程度の流れを作っていた一日目、二日目に比べると、その登場の仕方はバラバラである。

するとどうなるか。チーム曲やそれぞれのユニット、SKEなどの支店が一曲一曲で変わるのだ。その分、衣装チェンジやステージ裏の移動も格段に増えることは素人目にも明らかで、それをクソ暑いステージ裏で何度も何度もさせているわけである。運営も観客もそうだが、セットリストに不満があると言って、思い切って変えるとこういう人災がまた増えてしまうという良い例を見ているようだった。

それでも三日目はやりきった感があったのか、メンバーのにこやかなインタビューで終わる。ここに唯一の救いがあったといっていい。あの前田敦子も最後には大島優子とイチャイチャしながら、今のAKBで見せれるものはすべて見せたと渾身の笑顔で言っているので、一応観る側のそういったモヤモヤはここですべて解消される作りにもなっている。くそう。

というわけで、ドキュメンタリー映画とあわせて観ると、とてつもなく壮絶だったことがさらにあきらかになるDVDなのだが、さすがに三日目の出来事を二日目に起こったように編集するというのはいかがなものかと思い、こうしてエントリにした次第である*1BUBKAの座談会にてコンバットREC氏が抱いていたような怒りと葛藤はドキュメンタリーを観ただけでは抱かなかったが、さすがにこのDVDを観たら、そういったことを思ったので、そういうことを考慮したうえでの編集だったのかもしれない。実際たかみなは満身創痍であったが、あの「走れー」は二日目で、まだ他のメンバーは少しは余力があったということも分かったし(とはいえ、すでに前田敦子はぶっ倒れていたわけなんだが)。

あと、ここからは余談であるが、このライブDVDに一切収録されなかった部分はドキュメンタリーを観ると明らかになるという作りになっており、実はこれほど壮絶だったんだという部分は本編には一切映っておらず、大島優子過呼吸になるシーンも、その直前までは入っているものの、それそのものはオールカットするという徹底ぶりで、エンターテインメントとしての体裁を守っている。ライブの流れで見るとダレるだろうなという部分もなく、前田敦子過呼吸から「フライングゲット」に移行する部分のMCも完全にカット。そのへんはさすが商売人と逆に感心したくらいだ。

ちなみにこの西武ドームライブは2011年7月に行われたものだが、今、改めて観ると、SDNは解散してるわ、すでに卒業しているメンバーが数人いるわ、前田敦子もいなくなってるわ、あげくチーム自体も組閣しちゃってるわ、さしこはHKTに移籍しちゃってるわで、今まで以上に激動の一年だったことを改めて思い知らされた。ちなみにドキュメンタリー映画は今年の二月に公開されたが、来年のドキュメンタリーはどういう風に作るのか……高橋栄樹監督の手腕に期待したいところである。

*1:というか、ぼくのように勘違いしてしまう人が多数いるだろうなとも思った