アクションしかないアクション映画『ザ・レイド』

ザ・レイド』をUS盤BDにて鑑賞。

すでにアメリカでは大ヒットしており、リメイクも決定、そして一部好事家の間では公開前から話題になっているインドネシア製のバイオレンス・アクション。

日本版の予告編では歴代のアクション映画のタイトルがずらずらと並び「アクション映画に新たなる歴史が刻まれる」という、なかなか挑戦的な打ち出し方をしているが、それは伊達じゃなかった。そのことば通り、ホントにアクション映画史の新たなる1ページを目撃しているような、そんな気分にさせられた。エポックメイクとなる作品は数あれど、まさかインドネシアからそれが出てくるとは不意打ちもいいとこ。『燃えよドラゴン』もそうだが、いわゆるマーシャルアーツ映画というのは*1もしかしたらアジアが先進国となって、世界をリードしているのかもしれない。そう思わせるくらい画期的で革新的な作品であった。

ストーリーは至極単純。麻薬王が支配し、住人全員がギャングという30階建てのマンションにSWATが突入し、死闘を繰り広げるというもの。

普通、この手の作品ではドラマとなる部分が一応にはあるのだが、この映画にはそれがまったくない。最初に主人公が奥さんに「いってきます」というだけでいきなりアクション部分に突入。あとはそれが延々続いていくというありそうでなかった展開で出来ており、二度目にDVDかなんかで見返すときにアクション部分だけを延々見続けるぼくのような人にとってはまさにアクション映画の理想がここにあったという感じ。

ブルース・リーが生前『死亡遊戯』をアクションシーンから撮ったというが、もしかしたら『死亡遊戯』という映画はこういう形で作られるべきだったのではないかと思わせるくらい、見事にそのスタイルを踏襲している*2

さて、そのキモとなるアクション部分であるが、撮り方から演出の仕方からコレオグラフからとにかくフレッシュ。とても低予算で撮られたとは思えないほど銃撃戦は迫力満点で、インドネシアの格闘技である「シラット」を使った格闘シーンはいろんなところでいわれてるようにタイの『マッハ!』を彷彿とさせた。カメラワークもかなり凝っていて、穴が空いた床から下の階に飛び移ると、カメラもそのまんま人間を追って、カットを割らずに格闘シーンにつながるなど「どうやって撮ったの?」という映像マジックが連発される。さらにアクションシーンだけでもって、サスペンスやドラマのエモーショナルな部分を演出しており、ただ単にアクションだけが売り物の映画ではないことも重要。エフェクトをオールCGでやったことも成功の要因であり、バイオレンスは異常なほど激しく、スプラッターホラーばりに血しぶきが画面を覆いつくす。

正直、ぼくは『マッハ!』にたいしてそこまで良い印象を持っておらず*3、それからいくと、この『ザ・レイド』は真に革新的なアクション映画として断固支持したい。以前知り合いから聞いた話だが、アメリカ人は『ロボコップ』を映画館で観るとき、ドラマ部分になると爆音のクラブミュージックをかけて踊り、バイオレンス部分になると、その音楽を消して、イエー!!と叫びながら観るという。まさにそういう人たちに向けて作られたような作品であり、これがハリウッドでヒットしたのも頷ける。

ちなみに新潟ではセカンド上映扱いで12月から公開。是非ともシラットの美しさ、迫力をスクリーンで体験したい次第である。

*1:香港映画界は別にしてそもそも『燃えドラ』以前、世界的にそういうジャンルがあったかどうかは分からないが

*2:ぼくは『死亡遊戯』に関してはその後に作られた『死亡的遊戯』しか見返さないし、その映画でもアクションシーンの部分しか観ない

*3:そのあとに作られた『トム・ヤム・クン!』は大傑作だと思う