カンフー映画の原点『吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー』


『吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー』は香港映画のターニングポイントになった作品である。これ以前の香港映画は邦画の殺陣に影響を受けた武侠映画が基本で、さらに『座頭市』のヒットにより、ハンディキャップがある主人公という設定から片腕がない主人公が大暴れする『片腕必殺剣』が公開。そしてそれを演じたジミー・ウォングは片腕スターとして有名になるわけだが、以前から彼はショウブラザースの扱いに不満だった。なによりも月給制で作品のヒットとは関係なく、給料は変わらなかった。彼はその不満を爆発させ、ショウ・ブラザースに「監督をやらせろ!」と要求する。

武侠映画に飽き飽きしていたジミー・ウォングは『姿三四郎』を観て感銘を受け、素手による戦いを描きたいと前々から思っていた。そうして作られたのが『吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー』である。この作品は香港映画初の200万ドルを越す大ヒットを記録。ここから香港映画=カンフー映画という歴史が始まっていく。そう、今日の香港映画のカンフーアクションはジミー・ウォングが作ったと言っても過言ではないのだ。

ちなみにこの作品をアメリカのチャイナタウンで観たブルースリーが憤慨し、「本物のカンフーをみせてやる」という事で映画界に乗り込んで行ったのも有名なエピソードの1つである。

『片腕ドラゴン』に通じる復讐劇のストーリーはもちろん元祖なだけあって、この映画から変わってない。ジミー・ウォングのカンフーはお世辞にもうまいとは言えないので、カンフー自体はそこまでの出来ではないが、監督としての才能がそれを上回っている。細かいカット割り、一枚絵の美しさにこだわった構図の取り方、ジャンプカット、ドリーを使った優雅なカメラワークなど映像作家としての感覚が素晴らしい。一般的なイメージとして香港映画というのはアクション以外あまりたいしたことないという作品が多いイメージだろうが、これは映像単品で見ても郡を抜いている。特に食堂で敵役のロー・リエが悪巧みをするシーンのカメラの動きや棺桶から覗く構図は、明らかに『レザボア・ドッグス』であり、タランティーノはこの作品に影響を受けたと語っているが、それは『キル・ビル』だけのことではないようだ。

カンフー自体はたいしたことないと書いたが、アクションのシークエンスは見事。『キル・ビル』にも影響を与えた100人相手の格闘シーンの迫力はさすがで、次々に襲ってくる敵をなぎ倒していく様は圧巻の一言。西部劇の決闘を思わせる手裏剣のシーン、刀を使った殺陣、ラストの雪山での一騎打ちなど見所も多し。カット割りでぶった切ったカンフーはあまり好きではないが、ワンカットが長いアクションも多いため、まったく問題なく見れてしまう。素手で殴ってるのに大量の血しぶきが出るのは、武侠映画の名残りなのだろう、血みどろの復讐劇が好きという個人的嗜好も相まって、この作品のバイオレンスはたまらないのだ。

なにしろ香港カンフー映画の基礎を作っただけにストーリー自体がカタルシスに満ちている。師匠が殺される→ついでに重傷を追う→修行して強くなる→復讐を遂げる。この黄金パターンにあの映像表現がかぶされば、映画単品としても素晴らしくなるのは当然であろう。

さらにこの作品は修行シーンがとてつもないのである。燃えさかる炎で石を焼き、そこに両手を突っ込むという気功の修行。そして両足に重りを付けてひたすらジャンプしジャンプ力を上げるという修行。ハッキリ言ってこの修行に何の意味があるのかわからないが、それよりもすごいのは映画の中でこの修行を活かした技をまったく使わないことである。一体なんだったというのだろうか。

長い歴史の中において、エポックメイキングと称されながらも、そのおもしろさは色あせてはいない。個人的には『片腕ドラゴン』よりも観て欲しい大傑作である。おすすめだ。あういぇ。

吼えろ ! ドラゴン 起て ! ジャガー [DVD]

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