AKBすかんぴん『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』

『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』を鑑賞。

本題に入る前にとりあえず今回の映画に対するスタンスだけ書いておこうと思う。

まずオフィシャルで発表しているAKBのドキュメンタリー『DOCUMENTARY of AKB48 to be continued 10年後、少女たちは今の自分に何を思うのだろう?』とその前編にあたる『DOCUMENTARY of AKB48 1ミリ先の未来』はBGM的に流し見したのを別にしてきっちり5回以上は見ており、さらに先日放送された『DOCUMENTARY of AKB48AKB48+1」』はその構成の妙もあってか10回くらい見ている。今作では重要である西部ドームライブもBSで放送した3時間半のものであればかなりの回数を見た。

さらにMJで不定期に特集されている「AKB48被災地訪問」はすべて観ており、ぼく自身が中越地震の際にボランティアに行ってることもあってか、今回のドキュメンタリーに挑む姿勢としては準備万端で、言ってしまえば「オレが観に行かないでどうする!」と一人で意気込んでたくらいだった*1

とは言いながらも前作のドキュメンタリー同様。どうせ複数回観ることは確定してるわけだし、その映画代をDVD購入のための資金に回そうと当初はスルーする予定だったのだが、今回の「少女たちは傷つきながら、夢を見る」を観た人が軒並み高評価で、やれ「今年のベスト作」だの、やれ「映画としておもしろかった」だの言い出し始め、さらに「タマフル」の映画評論コーナー「シネマハスラー」での宇多さんの完璧な評論が後押ししたのか、それに乗っかる形で個人的に信頼している人が二人ほど観に行き、昨日その二人に「絶対に観にいくべき!」とトドメをさされ、結局観にいく運びとなった。

さて、今作。基本的には一番最初に作られた『DOCUMENTARY of AKB48 1ミリ先の未来』を下敷きにしている。作品の構成として、震災後アイドルはどのように立ち振る舞えばいいのか?からはじまり、被災地訪問、総選挙での悲喜交々、史上最悪のライブとまで言わしめた西部ドームの舞台裏、ジャンケン選抜、そしてチーム4の発足とそのキャプテンである大場美奈の謹慎のパートに分かれており、そこに主要なメンバーたちの本音がずらりと並ぶというものなのだが、被災地訪問以外の部分は『1ミリ先の未来』をブラッシュアップしただけにすぎない。

総選挙はもちろん、史上最悪のライブだった西武ドームの部分は横浜アリーナ代々木第一体育館でのライブでのドタバタとほぼ同じで、秋元康に説教され、高橋みなみがそれをしっかり受け止め、その思いをメンバーに伝え、河西智美が泣きながら「よかった?もっと出来るのに……」と悔しがり、さらに高橋みなみ熱中症でぐったりしている様子など、実は前のドキュメンタリーから描かれていたりする。そしてその後はジャンケン選抜があり、大場美奈の謹慎パートも秋元才加のそれとほとんど一緒で、これに被災地訪問を絡めたのが今作だと言い切っていい。それくらい構成は一緒なのである。

ただ、この『1ミリ先の未来』はAKBのドキュメンタリーの中でも屈指の出来であり、これをブラッシュアップすれば良作になるに決まっているのだ。映画を見世物小屋とするならば、今作はその役目は十二分に果たしていると言える。というよりも、これお金をとって、好事家に見せるというシステムでよかったと思う。なぜかというと選抜総選挙という名のランク付けやセレクション審査という名の解雇システム、さらに恋愛禁止による罰則も含めて、ある種さらし者にされてしまうような側面を持つAKBの、知ってるつもりで全然知らなかった部分を『1ミリの先の未来』よりもクッキリと写しだしているからだ。

売れてないアイドルたちの現実を映し出した「アイドルすかんぴん」というドキュメンタリーが放送されたが、今作はあれの国民的アイドル版といっても過言ではないだろう。見たくない人にとってはホントに見たくなかった部分であり、ある種の好き者とってたまらない映像集なのは間違いない。

そういうファンにとってのショックな出来事というのは、前評判からある程度想像はしていたのだが、中盤前くらいからその想像を超える「ここまで見せるのか!?」感に絶句し、空いた口が塞がらなかった。過呼吸でバタバタ倒れていく人間やスキャンダルで責め立てられる人間、さらにAKBが持つシステムそのものに悩み葛藤する人間の吐露が容赦なく出て来るために、思い入れがある人間にとっては顔面蒼白になること必至だろう。これは『1ミリ先の未来』では決して描かれなかった部分である。

その距離感や思い入れ加減によって感想はいろいろ飛び出すだろうが、そういった様々な人の意見を全部まとめて聞きたいと思わせるほど多様な見方が出来る作品でもあり、こんな思いをしてまでもなぜ彼女たちはアイドルでいることを辞めないのだろうという問いをファンに迫る問題作でもある。

カメラが複数まわっているという異常なことが日常になっているために、はじめて見る映像もたくさんあり、「実はここではこんなことが起きていた」というのを、今までさんざ見てきた映像とうまく繋ぎあわせていて間口が広くなっているが、全体のトーンは基本的にシリアスで笑える箇所はかなり少ない。

台本もないのに、まるで台本があるかのような見せ場が、リアルなドラマとしていくつも出て来て、映画としてもドキュメンタリーとしても見応えがあるだけでなく、これを観る前と観た後では今までのイベントも見る目が180度変わってしまうという、運営側としてもギリギリのラインを攻めているもので、ふぬけたインタビュー集という印象でしかない前作よりも遥かにおもしろかった。テレビで放送していた舞台裏は舞台裏どころか、まだまだ表の一部だったのである。

前作ではそこまで踏み込んだ話をしていなかっただけに、今回は光と影をしっかり写してくれという発注通り、メンバーたちの痛々しいほどの本音が飛び交う。すごいなと思ったのは人気者になったにも関わらず、自分たちの置かれてる状況を恐ろしいくらい客観視しているところ。素人目に見ても残酷的な場面でさえ「出来れば関わりたくないですよー」だの「ツラいの慣れてますから」だの「ライブで次なにやるか分かってないなんてしょっちゅうですから」だの、えっ!?って思うようなことをまるで他人事のようにさらっと言ってのける。

そういったメンバーの客観性を今まで撮りためた映像にインサートしていくのだが、まぁそのお蔵だし的な映像がホントにすごかった。メンバーのことを知らなくても、「あるアイドルのライブの舞台裏」というだけで観る価値はあるのではないだろうか。特にその中盤の西部ドームのくだりは筋書きのないドラマという言葉を象徴するような盛り上がりで、死ぬ気でやるということに嘘がない必死さが画面からあふれていた。ぶっちゃけ観ているときはここで映画が終わってしまうのかと思ったほどである。

ところが映画はこれだけで終わらない。さらにそこから新チーム発足からのスキャンダル発覚という残酷的な展開を見せ始める。ここは元になった秋元才加の騒動と同じなのだが、当事者として投げ込まれた人物には直接インタビューせず、山内鈴蘭という第三者の視点を入れることによって、よりフラットに人間関係を整理していく。さらに大場美奈島田晴香が同期でライバル同士だけに、その因縁をクローズアップする。そして映画として公開しているだけに、割り当てられた時間は長い。それゆえにドロドロした部分を執拗に描いていく。ここの編集はかなりうまく、この二つの場面だけでもぼくとしては大満足だった。

ただ、やはりというか、ある程度いろんなことや出来事、時系列を知ってるだけに、もっとこうすべきなんじゃないのかという懸念は常に頭の片隅にあったというのが本音である。これはもうその距離感による個人の勝手な感想なので仕方ない。きっと観た人同士で「ここはこうすべきだったんじゃないか?」「いや、ここはこれでよかったんじゃないか?」とわーわー言いながら盛り上がる部分も含めてのパッケージングであって、実は映画というのはそういった受け手の解釈によって埋まるものなのだ。それは作品の出来/不出来には関係ないところであり、そこも含めるとやはりいい映画だったんだなぁと思わせてくれるのも事実。

というわけで、かなり長くなってしまったが、総括すると、『1ミリ先の未来』の続編という意味で大変満足したが、自分ならこうするという部分も目に付いたという感じだろうか。あとやっぱり映画館で見なくても、テレビでいいかなと思ってしまった。とはいえ、テレビで放送するにはなかなかショッキングな映像集なので、それこそ「わーAKBが出てるー」なんて言って無邪気に見始めると、その過酷さに子供は引くと思うが……*2あういぇ。

【追記】

今回、久しぶりのTジョイでの鑑賞だったのだが、デジタル上映だったのか、やたらと画面がパッキパキだったのに驚いた。BSで放送するのかどうかは別にして、とりあえずブルーレイでの発売を希望したい。

でも映像が良かったとはいえ、やっぱり駐車場の混み具合とか位置とか、スクリーンの大きさとかイスの座り心地とか、観る環境はちょっとなぁ……あとあの整理券出して、番号呼ばれた人からチケット売り場にいくという病院みたいなシステム止めた方がよくない?

こちらが史上最悪のライブと言われたある意味で伝説的な西部ドーム初日。逆に見たくなった。

*1:ちなみに他の番組や公演をふくめたアルバムやシングル、派生ユニット、姉妹グループなどの情報は言わずもがな……

*2:ちなみにそのシネマハスラーでのリスナーメールで「子供に見せたらAKBに入りたいと言わなくなりました」というのがあった。