この規模ではわりと問題作じゃね?『悪の教典』

悪の教典』鑑賞。

『牛頭』のUS盤DVDの特典にイーライ・ロスギレルモ・デル・トロと三池監督が対談している映像が入っていた。

その中で、三池監督は「映画祭でおばさんに、こんな映画作るなんてあんたビョーキよ!と言われたことがある」と話し、その内容を受け、インタビュアーがイーライとデル・トロに「お二方から見ても三池監督はビョーキだと思いますか?」と気のきいた質問をした、そのとき二人は嬉しそうな顔をしてこう答えた。

「Yeah!!(もちろん!)」

特にイーライは筋金入りの三池ファンであり(作品の細かい部分まで見ている感じがあった)、自身の作品にも役者として登場させたくらいだが、この『悪の教典』をイーライに見せたら、きっとこう思うに違いない。

「やっぱりMIIKEはとてつもなく狂っている」と。

わりとネットでは「手ぬるい」というような感想がチラホラと散見されるが*1シネコンで大規模に公開されるメジャー作として考えれば、ハッキリ言って大問題作だと思う。不謹慎なギャグ、生徒と先生のなにがし、さらに同性愛など、地上波で『高校教師』を放送したときのようなタブーに溢れ、なによりも「先生が猟銃片手に生徒を一人残らず殺してまわる」という内容は絶対にアメリカでは製作不可能。まさに日本映画だからやれた、日本だからこそ作れた、そして三池監督だから成功した、これぞ「オレたちが観たかった和製バイオレンス映画」である。

ざっくり書くと「キラー・インサイド・ミー」な主人公が「バトル・ロワイアル」をするというものであり、わりとその思いつきだけで話が作られてるような感じだが、役者たちにステレオタイプな演技をさせたり、あえて斜がかかったような映像にするなど、そもそもこれは作り話ですからーというリアリティラインの敷き方というか、開き直りがすばらしく、重厚な画作りで観る者を圧倒させた『十三人の刺客』に比べると、今回は三池監督本来の良い意味でのチープさが随所に出ており、そのエキセントリックな作り物感も含め、ぼくたちが大好きな三池イズムが最初から最後まで詰まっているという感じ。

特に素晴らしいなと思ったのが、後半。生徒がいろいろと打開策を見つけるんだけど、それがまったく意味をなさないというか、ことごとく無慈悲に握りつぶされていくという展開。前半がわりと予定調和にすすんでいくので、それが前フリとして効いており、どうせこういう展開になるんでしょ?という観てるこちら側の安心感をことごとく一気に裏切っていく。ここでの伊藤英明の演技はキャリアのなかでも最高峰であり、このメジャー作品でここまでやるかというエフェクトも加わって、さすがに興奮した。BGMの使い方や容赦のなさも含め、今までの三池演出の中でもピカイチだろう。

伊藤英明だけでなく、今作の役者の演技は圧巻。特に若き日の宮崎あおいを彷彿とさせる二階堂ふみのかわいさにはノックアウト。圧倒的な存在感を見せつけた染谷将太、もはやあの役に違和感を感じない山田孝之など、全員が全身全霊で熱演していたように思う。

もちろん無理矢理な回想シーンなど(アメリカシーンのセット感……)、思わず頭を抱えてしまう部分も多く、手放しで絶賛できないが、それでもこれだけの内容をこれだけの規模でキッチリと映画化したことは評価したい。冒頭、原作者による「蓮見先生がんばって」のメッセージや、ラストのエグザイルももはやネタにしか聞こえない三池監督の凶悪センス、ここに健在である。

*1:そりゃ『殺し屋1』に比べれば、わりと優しい作りになってる