すごくかっこいい!『先生を流産させる会』

『先生を流産させる会』をレンタルDVDで鑑賞。

女子中学校の教員であるサワコはモンスターペアレントに悩みながらも、厳しく生徒を叱責し、指導する日々を送っていた。そんな中サワコは妊娠し、それが生徒に広まってしまう。その先生の妊娠に過剰に反応した生徒のひとり、ミズキがある計画を友人たちと実行する。それは先生の子供を流産させようというもの。先生を流産させる会を名乗り、その計画のひとつとして、給食に薬品を混入するのだが………というのが主なあらすじ。

その挑発的なタイトルや実際の事件を大幅に改変したこともあって、公開前から大変話題になった作品であり、いろんなところで絶賛も批判もされているが、そのテーマ性や内容はともかくとして、とてつもなくおもしろく、素晴らしい映画であった。冒頭、ある残酷な行為を唐突にして、それがそのまんまラストにつながっているというのは名匠サム・ペキンパーの『ワイルド・バンチ』を彷彿とさせるが(動物の死骸にアリがたかるなど、冒頭のそのシーン自体を彷彿とさせるカットも出てくる)、その「あたま」と「ケツ」を「先生を流産させようとした生徒のいたずら」にくっつけたようなそんな印象すら受けた。

まず、この作品は「画」がとてつもなくかっこいい。実に映画的である。

ここぞという場面のほとんどをロングショットで撮影し、さらに長回しでもって、異様な空間を作り出す。これは黒沢清北野武が得意とする手法であるが、この作品において、その手法はこの物語にうずまく感情を突き放していることでもあり、なおかつ、子供というのは無垢であるが故に何をしでかすかわからないという怖さであり、その先にある緊張感でもある。

その長回しのすばらしさが実に効いていて、言ってしまえばそれだけで最後まで観れたということでもあるのだ。全部が全部このように撮る必要性はないが、低予算の自主映画において、これはおおいにアリだと思う。特にタイトルの出し方がホントにかっこよく、そこでかかる音楽との相乗効果もあいまって、この時点で傑作を確信した。

惜しむらくはやはり室内になると、そのロングショットとの差を感じてしまい、急に画が貧弱になることと(それでもカメラはかっこよく動き続けるんだけど)、妙に役者の演技(特に先生役の人)がステレオタイプで、そこで演技していることが観てるこちら側にも感じられてしまうこと(演技がヘタというわけではない)、あと冒頭で傑作を確信したと書いておきながらなんだが、中盤の展開がやや退屈であるとか、まぁ、いろいろと荒削りに感じられるところはある(特に生徒をビンタするシーンにいたっては完全に当たってないことがバレバレで、あれはホントにビンタしても問題ないように思うのだが、それこそ演じてた子供の親からモンスターペアレンツのようなクレームがあったのだろうか、そういう契約とかなのだろうか、はたまたわざとなのか……)

しかしだ。この画のセンスと挑発的な内容、そしてカットの繋ぎ方とテンポには圧倒的な才能を素直に感じる。これに役者への演出力がもう少しだけ伴えば将来大化けする可能性も大。そのタイトルと内容だけで喰わず嫌いしているならば、とりあえず最初の5分だけでも観ることをおすすめしたい。

あ、子役というか、その「先生を流産させる会」のメンバー全員は瑞々しくて大変素晴らしい演技だったということは付け加えておく。

先生を流産させる会 [Blu-ray]

先生を流産させる会 [Blu-ray]