『クソすばらしいこの世界』がクソすばらしい件

『クソすばらしいこの世界』をレンタルDVDで鑑賞。

人数合わせ……というか急遽来れなくなった「誰か」の代わりに、日本人の留学生たちと町外れのコテージへ一泊することになった韓国人留学生が主人公。一緒に行こうと誘った友人以外英語がまったく喋れず、早くも孤立し、その日の夜に帰してくれと頼むが、実はコテージへ向かう道中。もよおしてしまった女の子がたまたま殺人鬼の車の影でおしっこをしようとしたからさぁ大変。殺人の証拠を見られたと勘違いした殺人鬼は彼女たちが泊まっているコテージへと向かう……というのが主なあらすじ。

アメリカに留学している金持ちの学生たちがバカンスへ……という「悪魔のいけにえ」的な直球のスラッシャームービーだが、演出の妙もあってか、和製という冠をつける必要性がないくらい本格派の空気がただよう。地元の殺人鬼周辺シーンはセカンドユニットでも組んだのか?と思うほどよくできており、不安な心情を手持ちカメラのブレで表現するなど、映像を見ただけですべてがわかるようになっている。

この手の映画でタルいとされてる前半部分をゴダールのごとくジャンプカットでバンバン処理するなど、出演者がコメンタリーにて「こういう編集いいっすね。ちゃんと省略して。ここ一番観てる人が観たくないシーンですからね。ここ演じててもグダグダしてんなーって思ったんで」とわざわざいうほどテンポがよく。そのランタイムの短さもあいまって、はじまったらノンストップでラストまで駆け抜ける。ゴアエフェクトがすさまじく、気持ちいいくらいに人間の肉片がバンバン飛び、血も激しく出るので、当然ながらこの手の映画が苦手な人は顔をそむけながら観るはめになる。実際描写はかなり見せていて痛々しい。

言葉によるコミュニケートができないという意味では『ムカデ人間』とも通ずるものがあるが(同じ人出てるし)、とにかくこの作品が凡百のスラッシャー映画と一線を画すのは中盤のあるポイント。これは映画のキモにあたる部分なので当然言及できないが、まったく知らずに観ると何が起こったのかパ二くるほど。ここが音楽でいうところのヨナ抜き音階であり、日本人が作った意味がある、決め手となっている。観たときは「あ、これ『○○○』じゃん!」と思ったが、コメンタリーによるとカット割りからビールが転がるところまでいわゆるその「元ネタ」を意識してやってるとのこと。これはかなり突拍子もないがアイデアとしては見事だろう。

『先生を流産させる会』にも見られたが、惜しむらくは暴力をふるうシーンで振り付けをしているのがバレバレなこと。特に冒頭。顔面を車に叩き付けるシーンは力が入ってないのが見えてしまい、映画の入り口なのに非常にもったいないなぁと感じてしまった。しかし、そのあとのタイトルバックもラストカットもかっこよく、すべてにおいて監督のセンスが光る傑作だと思った。かなりおすすめ。