無重力カメラの突破口『ゼロ・グラビティ』

ゼロ・グラビティ』を2Dの字幕版にて鑑賞。3Dじゃないと映画を観たことにならないらしいので、自分用のメモだと思っていただければ。

↑この画像でどういう映画なのかがすぐに分かるハイ・コンセプトな作品。


観る前になんとなく予想はしてたし、予告編でもバンバン明かされていたが、見事に『2001年宇宙の旅』の船外放出シーンの90分拡大版。『2001年』ではスーパーコンピューターHALの陰謀により、無音のなかクルクルと周りながら暗闇に放りだされたが、あのときの張りつめた恐怖をそのまんま観客が体験することになる。実際ホラー映画のようなシーンも多々あるので苦手な人は注意されたし。

元祖『ゼロ・グラビティ』ともいえる『2001年宇宙の旅』の船外放出シーン(しつこい)
その本編だけにとどまらず、冒頭。宇宙空間に漂うように浮かぶ宇宙船のカットからも分かるように『2001年』へのオマージュが随所に見られる。しかし、最先端のテクノロジーによる圧倒的な破壊シーンや全編無重力といえる表現でオマージュのその先にいこうとしている

監督は2006年に『ブレードランナー』、『未来世紀ブラジル』という二大カルトSFに並ぶ傑作『トゥモロー・ワールド』をつくり上げたアルフォンソ・キュアロン。『トゥモロー・ワールド』同様、長回しをメインに構成しているが、この「事故」を観客に体験させようという演出に基づいている。カメラワークもタイトル通りすべて無重力で、この手の技術はデイヴィッド・フィンチャーが好んでよく使うが、はじめて奇を衒ってないかたちで映画に登場した。長回し同様、今までこれみよがしだった技術表現が映画の本編になくてはならないものとして出てくるのが新しいなと思った。新しいというか、初めてかもしれない。

しかし今作は「圧倒的な映像で観客に宇宙そのものを体験させよう」というコンセプトだけに留まらず「そんなのどうだっていいよおもしろい映画を見せてくれよ」という観客の欲求にも応える。

リアリティを重視した映像革命的な部分で評価されているが、実はプロット自体はあざといくらいに次から次へとベタに展開させており(一難去って、また一難ということばがこれほど似合う映画もないだろう)、ぶっちゃけ観ていて、そこに違和感を覚えたくらいで、こんな都合良く次から次へと交通整理されたようにトラブルなんて起きないよなぁと思った。ホラー的な音楽の使い方が顕著で、何かが起きようとすると必ずクレッシェンド気味に音楽がかかり観客の意識をやたらと誘導させるが、その全編にわたる引っかかりこそがこの映画を「娯楽」にとどめている所以でもある。

「映画的」なのは、ベタに展開させようというだけでない。中盤。無重力空間を動き回るカメラにわざと水滴当てるというシーン。あれがあると「あ、そうか、この世界にはカメラがあるんだ。そうだ、これは映画なんだ」という意識が観客に働いてしまう。宇宙服のヘルメットを突き抜けるカメラワークもそうだが、つまりこの作品は大スクリーンで観客に宇宙を体験させつつ、無意識下では「映画を観ているんだ」と思わせることにも成功した希有な作品だという言い方もできるのだ。だからこそ玄人筋からも一般観客層からも支持されているのだと思う*1

他にもサンドラ・ブロックがよかったとか、サントラが素晴らしいとか、宇宙空間で飲むウォッカはうまそうだなとか、宇宙服の空気がなくなったわりにそのあとバンバン着てるじゃねぇかとか、いろいろ思ったが、百聞は一見にしかずということで是非スクリーンに足を運んでいただきたいなと思った。当然おすすめ。短いのもいいね。

*1:まぁメタ的な見せ方が良い悪いは別にしてもあれは発明だからねぇ。観てて結構ハッとするんだよね