バーテンダーのイサム

12月1日に放送された『全力教室』が衝撃的だった。いや正確にいうならこの番組にでてきたある男のある技が衝撃的だったという言い方がただしい。

世界で活躍するパフォーマーからスゴ技を教わろうという企画でいっこく堂須藤元気率いるWORLD ORDERが出演したのだが、そのなかでもラスベガスでマジックを披露しているマジシャンのKilaの技が頭ひとつぬけてるくらいすごくて、あまりに反響が大きかったのか、先週はこの人のマジックを生放送し、さらには正月にも出演が決まってるというからその業界の注目度がうかがえる。

すごかったのは技だけではない。この人。マジシャンとしては言っていけない、もしくは言ってもいいギリギリのラインのタネ明かしをしれーっと番組でしてしまったのだ。

はじめたのはカードを一枚引いてもらい、それにサインをし、さらにカードの山の中にもどして、数回きってから、サインしたカードを山の中から一発で出すというマジック。カードマジックの基本中の基本みたいなものだが、このマジックのタネ明かしが衝撃的で、なんとKilaはカードを持っただけでその持ってるカードの枚数が指先の感覚だけでわかるというのである。

つまりだ。こういうマジックにそもそもタネやトリックはなく、マジシャンはそのテクニックで、どこに引いたカードがあるかを把握していて、数回きったとしても、指先の感覚だけでそれがどこに移動したかがわかるということなのだ。

これの何が衝撃的だったかというと、そもそも人間にそんなことができるわけがないと観客は思い込んでいるため、その想像をこえた感覚とテクニックそのものがカードマジックの「トリック」だったという点である*1。いままで何度も「マジックの裏側教えます!」詐欺にあってきて、今回もまぁどうでもいい感じなんだろうなぁとナメて見ていただけにカウンターパンチを喰らった気分であった。

これだけでも充分だったのだが、これはあくまで前フリ。これらを説明し終えたうえでMCの加藤浩次がひとことこう言った。

「これ今の教えちゃったら我々これからカードマジックの見方が変わってしまいますよね?」

そこで改めて披露したのが「バーテンダーの136(イサム)」というカードマジックであった。

百聞は一見にしかず。とりあえずごらんください。

このマジックはジョーカーを抜いたトランプ52枚すべてを使い、どこになにがあるのかを正確に覚え、ひとつひとつ抜き出さないと成立しないもので、マジシャンのテクニックの極北みたいな「作品」であった。その話芸や演技のうまさもこのマジックを引き立てるひとつの要因であることも書いておかなければならない。

今までテレビには山ほどマジシャンが出演しており、そのマジックに唖然としたりあっけにとられるリアクションをするのがあたりまえだったが、出演者がスタンディングオベーションでバンザイまでするというのははじめて見た。先週の生放送ではこのマジックは披露しなかったが、カードを持っただけで正確に枚数をあてるくだりを改めてやり驚かせていた。

2014年。マジシャンのKilaのブームがやってくると予言して、正月の放送を楽しみに待つことにする。


【追記】「バーテンダーの136」は前に「メレンゲの気持ち」などでも披露されていたようです。

*1:彼はもちろんカードマジックにはトリックそのものを使うものもあると付け加えていたが