ことばのちから『マジックディスク』

超遅ればせながらASIAN KUNG-FU GENERATIONの『マジックディスク』を聴きました。もうベスト盤が出ているというのに……

マジックディスク【初回生産限定盤】

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普通バンドのバランスって演奏とメロディが5:5くらいで、それの比重が変わることで個性になると思ってるんですが、アジカンはその要素がもっと他よりも強いというか、五角形くらいの複雑なグラフを持ってたように思うんですね。パワーコードとオクターブを使っているのにメロコアばりにビートが速くて、それでいてメロディは歌ものとしても成立させてしまうくらい凝っている。しかも外部の音をまったく入れずに4人だけで演奏する。

これはどういうことかというと、元々ナンバーガールイースタンユースが持ってる要素があるじゃないですか、意識的に漢字を使った歌詞だったり、それこそパンクとは違うグランジからのエモっぽさ、そしてシャウト――――そこに洋楽の要素ですね。ウィーザーの音像だったり、ティーンエイジ・ファンクラブやオアシスが持ってる極上のメロディ――――これを全部取り入れたのがアジカンなんですよ。初めて聴いたとき、してやられたと思いました。

一見食べにくいものを食べやすく提供し直してるというか、クセのあるウイスキーを混ぜ合わせて新しいブランドとして売るというか、ラーメンに例えるなら、行列ができる各店舗の麺、スープ、具材、タレ、それぞれのいいところだけを集めて、上手にバランスをとって新しいブランドとして提供し直すみたいな?それこそダブルスープ的というか。ラーメン二郎をなおじろうにしているというか*1

これってやりかたとしてはサンプリングの手法なんです。ふつうこういうのってなにかひとつなんですよ。多くて二つくらい、ニルヴァーナであったり、ビートルズであったり、それこそセックス・ピストルズだったり。もちろん細かく入れる場合もありますが、大元はそんなもんだったりします。

ところがアジカンはいろんなところから吸収して、それを絶妙なバランスで再構築する。新世代のバンドの代表格といわれてますが、それにウソはないと思いますね。ウィーザーの顔がのぞいたと思えば、なんの違和感もなくイースタンユースになったり、オアシスになったりする。しかもアルバムの中のトラック別ではなく、一曲の中でこれらをやってのけます。

なので、こういう風に、出てきたときから完成系として見せられると過度な変化がものすごく目立つと思うんですね。例えばミスチルスピッツなんかはメロディとボーカルの声がバンドサウンドの軸だと思うんです。そうするとアレンジがどうなっても、ファンは「ああ、スピッツっぽいね」とか「ミスチルっぽいね」と安心する。作り手が違うものを目指そうと思っても、それが圧倒的な登録商標になってしまってるから無理なんです。それこそビートルズもそうですね。二人のソングライターのメロディにブレがないから、シタールを使おうが、ストリングスを使おうがビートルズサウンドになる。

逆もまたしかりです。メロディよりもアレンジや演奏力がバンドサウンドの軸であった場合――――ストーンズツェッペリンがそうだと思うんですが、こちらもギターリフやリズム隊が軸ならば、サウンドがファンクになろうが、ブルースになろうが、そのバンドっぽさはまだ残ります。さすがにメロディ先行のバンドよりは変化が目立つと思いますが。

アジカンは全部が全部、絶妙なバランスなので、どこかひとつだけでも違ってくるとまるで別物という印象になってしまうんです。ギターがパワーコードからローコードになっただけでもエラく違う。本人たちはその過度な変化を楽しんでいるし、変拍子になろうが、ギターの音がかわろうが、メロディがしっかりしていたのでアジカンらしさは残っていました。ところが今回の『マジックディスク』は完全にメロディを捨てているうえに、アレンジもガラっとポップになって、本当に違うバンドのように感じました。これらを踏まえた上で作られたのが“マーチングバンド”なんだなと改めて思いましたね。

メロディを捨ててると言いましたが、ちょっと語弊があるかもしれません。メロディよりもことばが先行してるように聴こえたんですよ。ことばの響きから曲を作ってるように感じるというか*2、喋るという言いかたは違うかもしれませんが、ことばそのものにちからがあるというか、パッと聴いたときにギターでもリズム隊でもメロディでもそれこそ過度なアレンジでもなく、いちばん最初に飛びこんできたのが、歌詞――――ことばなんですね。

佐野元春のソングライターズ」に出演した際、じぶんは詩人だと思うと言っていたんですよ。なるほどなと合点がいきました。音に関しては趣味嗜好あると思いますが、歌詞に関しては詩人の詩のように、いちばんことばが飛びこんでくるように作られてると思います。ちょっと前はナンバーガールのような散文的で抽象的な感じを狙いすぎてる感があって、それが若干鼻についてたんですけど、年齢と共にじぶんのものになってきたという感じですかね。言語にまでなってしまってるというか……

特にそのことばに感銘を受けたのがタイトルチューンである“マジックディスク”という曲なんです。今までいろんな音楽を聴いてきたつもりでしたが、こんなこと唄ってる歌詞なんて聴いたことないですよ。時代という言いかたはそうとう陳腐ですが、それこそ「時代」が書かせた曲と言っていいでしょうね。ものすごいこと歌ってます、これは。

そのことをこないだ出演した『僕らの音楽』に絡めて書こうと思ったのですが、長くなったのでまた次回ということで……あういぇ。

*1:新潟にある二郎インスパイア系のラーメン。二郎に比べるとエラく食べやすい

*2:実際歌詞は最後にのせてるんだろうけど