バンド全体で歌ってるような感じ/スピッツ『醒めない』と『小さな生き物』

昨日、いきなりステーキに行った帰り、タワレコへ寄ったら、店頭にスピッツのアナログ盤が何枚か置いてあった。人気のあるやつは早々になくなったのか、残されていたのは『さざなみCD』、『とげまる』、『小さな生き物』、『醒めない』と、比較的近年のものであった。

ただ、そこで「欲しいな」と思ったのが『ハチミツ』や『フェイクファー』ではなく『小さな生き物』や『醒めない』だったのが自分でも意外だった。

遅ればせながら先月『醒めない』を購入して聴いたんだけど、これが見事にライブ仕様というか、アレンジは良い意味で荒っぽく、草野マサムネのボーカルに妙な勢いがある。ミックスもそれに釣られるようにボーカルが前面に押し出されるような感じになってた気はしたが、バランスがよく、アレンジの荒っぽさとはうらはらに丁寧。「ロックの熱はまだまだ醒めないよ」というテーマで作られたタイトルチューンがそのまんまアルバムのアティチュードになっており、その意味ではファーストに近いかもしれない。

特に「幻のドラゴン」と「エンドロールには早すぎる」を組み合わせ、そのまま「ヘビイメロウ」の流れになる「子グマ!子グマ!」が素晴らしく、「ガラクタ」もBlurの「Movin'on」みたいで楽しい。ツェッペリンブルーハーツグランジも吸収しながら、スピッツでは珍しく、メロディよりも演奏重視で作られたノレるアルバムになっていた。

で「あれ?オレ『小さな生き物』を最初に聴いたとき、どういう感想を持ったっけ?」とツイッターで検索したら、結構似たようなことを書いていた。

オアシスの『ディグ・アウト・ユア・ソウル』やミスチルの『SENSE』、奥田民生の『Fantastic OT9』など、メロディが際立ってるバンドないし、バンドサウンドのミュージシャンがライブを重ねてきたことにより、メロよりも演奏重視になることはよくあって、椎名林檎東京事変を、中村一義100sを組んだのもそういう理由だと思うが、スピッツもついにその領域にきたかと思った。

ぼくだけではないと思うが、メロディが濃い曲というのはキャッチーでわかりやすい分、反面飽きやすいということがある。前に車で『Fantastic OT9』をかけてたら、妹が「え?これ民生なの?めちゃくちゃかっこいいじゃん!」と反応していたのも演奏がかっこよく、メロが際立ってないからだと思うが、実はスピッツのアルバムで今でもよく聞き返すのはスピッツのパブリックイメージからかけ離れた『ハヤブサ』や『惑星のかけら』、『小さな生き物』だったりする。

で、それで改めて良い音で聴きたいなと、早急に『小さな生き物』のデラックス・エディションを購入してアンプ通して聴き直したらやっぱりメロディよりもすさまじく演奏が際立っていた。「未来コオロギ」は「虹を越えて」の、「潮騒ちゃん」は「マーメイド」のビルドアップ版だといっていい。

特に特典のライブ映像に収録されている「エンドロールには早すぎる」のライブバージョン(レコーディングはギター以外、打ち込み)はその面目躍如といったところで、有機的なグルーヴにすることにより、スピッツなりの踊れる————身体を揺らせるディスコロックに生まれ変わっていた。ミックスに関してもボーカルよりバックの音が目立っている感じがした。

最近はっぴいえんどのアナログ盤が復刻して聴いてたりしたのだが、リズムが良いロックミュージックというのは何度も何度も聴けるなと思っていたところで。だからこそはっぴいえんど(特に「ゆでめん」)は口ずさめる曲が少ないが、とてつもなくかっこいい。スピッツもそういうバンドになりつつあるとそういうことなのである。

結構ぼくの周りでスピッツを『スーベニア』あたりから見限ったなんて人もいて、ぼくもスピッツ……草野マサムネが書くメロディが好きだっただけに『小さな生き物』で見限りそうになったが、スピッツが4人全員で楽器で歌ってるという風に聴くぶんにはかなり良いじゃないかと考えが変わって今に至る。結成30周年ということでアナログが復刻したが、そのあたりのアルバムが売れ残っているというのは非常に寂しい限り。今一度、ぼくみたいにこのあたりのアルバムを聴き直してみてはいかがだろうか。まぁ、値段もそこそこするから、どうせ買うなら最高傑作の『ハチミツ』あたりかなということになるんだろうけども……

醒めない(初回限定盤)(DVD付)

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