半分のことでいいから君を教えておくれ

お久しぶりです。ブログを三ヶ月も放置してました。とりあえず本日、5月20日で今の仕事をやめることができました。次の職場も決まっていて、そこが残業という概念がないので、わりと時間取れると思います。はい。そのあたりでライター業の方も再開したく……編集部のみなさまごめんなさい。

さて、今更だが、最近フジファブリック(志村正彦、在籍時のもの)を聴いていた。

聴きだしたきっかけはGW最終日の夜。あいもかわらずの人手不足で「猫の手さえも貸したい」状態であくせくと過ごし、やっとこさ落ち着いて不機嫌にリビングで酒を飲んでいたら、せきを切ったように親父が突拍子もないことをいいだした。

細かいニュアンスは別に要約するとフジファブリックの「桜の季節」と「若者のすべて」と「茜色の夕日」をCDにやいてほしいとのことだった。

数年前、親父が車を買いかえたとき、iPodが使えるということで、ぼくが使ってなかったiPodに親父が好きな曲をつめこんでプレゼントしたのだが、その際に、勝手にぼくがおすすめする曲を何百曲も入れていて、そのなかにフジファブリックのその三曲が入っていた。

そのiPodはシャッフルして聴くというのを前提してプレイリストを作ったため、それこそ受動的に有象無象の曲を聴くということになるわけだが、そのなかでもうすぐアラセブにもなろうかというジジイの琴線にフジファブリックのその三曲が触れたということになる。とはいえ理由を聞いてみると、妙にメロディやら言葉が飛び込んできたのだという。ボーカルの声は特徴的だが、同じバンドの曲だと思わず、そのことを指摘したら驚いていた(実際曲のタイトルもわからないため、それぞれのサビのフレーズを口ずさんでぼくに説明していた)。

で、それをいわれて改めてフジファブリックの曲と向き合ったのだが、これが良いのである。

まずおもしろいのは歌詞というか、ことばだ。ボーカルが朴訥な歌い方であるとは別に、全体的に「ひらがな」で書かれたようなそんな印象がある。絵で言えばクレヨンで書かれたような温かみがあるというか、だからといって子供っぽい世界ではなく、叙情性、風景描写、人物描写に長けていて、しかも主人公が置かれた状況に余白があり、すべてを明示しない。それこそ北野武の映画のように「なにがあって、彼らはこうなったのか?」についての説明がなにひとつない。楽曲もそうで、わりと音に隙間があり、そのスカスカな感じが当時は好きではなかったのだが、今聴くと、その隙間もすごく気持ちよく感じる。

改めて聴いて驚かされたのがアルバム『MUSIC』に収録されている「夜明けのBEAT」と「Bye Bye」だ。

MUSIC

MUSIC

前者は『モテキ』の主題歌として話題になった曲なのだが、この曲の出だしのフレーズ「半分のことでいいから君を教えておくれ 些細なことでいいからまずはそこからはじめよう」という部分。

福山雅治は「ラブソングは答えが分かってるエンターテインメントだ」と「関ジャム」で言っていたが、だからこそ、その表現には細心の注意が払われてしかるべきだと思う。恋愛がはじまるときめきや、相手のことが好きだとわかったとき、実際は一目惚れも含めて、相手のことを知るのは半分以下でもいいはずで、だからこそ同棲してすべてが分かってから失敗するなんてケースもあるわけだが、この半分くらいは知っていたいという欲求も含めて、この出だしにはハッとさせられたし、キュンとしてしまった。

そして後者はPUFFYに提供し、本人がセルフカバーもしている曲。

状況としては恐らく、相手に好きな人ができたので別れてくれと言われた男が、悲しんでいるということなのだろうが、これが絵本のようなわかりやすい言葉選びでその別れを活写。そのシンプルさとポップさが絶妙で切なさを引き立てる。さながらThe Beatlesの「Hello Goodbye」ともいえる名曲。

奇しくもこの二曲はアルバムの収録順でいうと並んでいて、恋愛のはじまりを歌ったあとに別れを歌がやってくるというおもしろい構成になっている。この二曲でガツンとやられたので、そのまま両国国技館で行われたライブDVDも購入してしまったくらい。このライブDVDがすこぶるよく、思わず富士五湖文化センターでのライブDVDも注文した。これはまだ届いていない。

ちなみに二曲おすすめしたが、いちばん好きなアルバムは「TEENAGER」であり、フジファブリックを聴くならこの一枚だけで充分くらいに思っているので、もしこの記事で興味を持っていただけたならそれを聴くことをおすすめする。

TEENAGER

TEENAGER

TEENAGER(生産限定アナログ盤) [Analog]

TEENAGER(生産限定アナログ盤) [Analog]

「忘れることはできないな そんなことを思っていたんだ」……まさかこのフレーズが突き刺さってしまうとは書いた志村正彦本人も思うまいて……