20年経った今こそ『Be Here Now』を再評価せよ!

いま思えば1997年の音楽シーンはすごかった。

“いま思えば”と表記したのは、当時はそのすごさがあまりピンと来てなかったからである。

その頃のぼくはといえば、碇シンジと同じ14歳。渋谷系に傾倒し、サブカルをひた走るマセガキであり、誕生日プレゼントはもちろんのこと、お年玉やお小遣いはすべてCDとゲームに消えていた。ニルヴァーナよりもスマパンを好み、Weezerを愛聴。後に同級生の間で大流行りしていたDragon Ashの「Grateful Days」のトラックはスマパンの“Today”から引用していたことに気づき、自分だけの大発見だと思っていた。よくよく考えたらぼくはアウトプットがブログになっただけで、この頃から20年経っても何も変わっていなかった。

記憶が曖昧だが、(ぼくのなかで)97年の音楽シーンを切り開いたのはブラーの「blur」だった。

ブリットポップブーム全盛にブリットポップを牽引したバンドが自らそれを破壊。さらにレディオヘッドが「OK Computer」を発表し、終止符を打った。あまり肌で感じてはなかったが、いわゆるシーンの終わりというのをリアルタイムで体験していたということになる。

それだけじゃなく、振り返っても97年はとんでもない名盤が次々に発表された年だった。思い出せるだけで言うと、オーシャン・カラー・シーンの「Marchin' Already」、ヴァーヴの「Urban Hymns」、ティーンエイジ・ファンクラブの「Songs From Northern Britain」、プロディジーの「The Fat of The Land」、THE YELLOW MONKEYの「SICKS」、中村一義の「金字塔」、スガシカオの「Clover」、コーネリアスの「FANTASMA」、カジヒデキの「ミニ・スカート」、the pillowsの「Please Mr.Lostman」、Thee Michelle Gun Elephantの「Chicken Zombies」、サニーデイ・サービスの「サニーデイ・サービス」………

これらを並べただけでもオールタイムベストが組めるレヴェル/クオリティであり、実際ホントにホントに繰り返し良く聴いた。もちろん後追いのものもいくつかあるが(プロディジーの「カニ」とかスガシカオは完全にそう)、わりと当時は各々CDを友人同士で買って聴くというのが当たり前だったので、幼なじみの家に集まってはみんなでワイワイ聴いていたと思う。その後も名盤や素晴らしいバンドは出てきているけれど、いまだにこれらのアルバムの呪縛から逃れられず、故にリマスター盤やら、解散したバンドの再結成なんかも思わず反応してしまっている。

さて、そんな中、前作がとてつもないビッグヒットとなり、シーンの最前線に立ったバンドが、異常なほどの期待をもたれた状態で一枚のアルバムを発表した。

オアシスの『Be Here Now』がそれだ。

後にこのアルバムは失敗作的な扱いを受け、セールスも前作の半分に満たなかった。バンドのフロントマンは出したことを後悔し、本人が選曲したベスト盤にはこのアルバムの曲が一曲も収録されなかった。

正直に告白すると実はぼくも最初このアルバムを聴いたときすごくガッカリしたことを覚えている。メロディが美しく、分かりやすい曲が並んでいた前作に比べると、『Be Here Now』はハードでエッジの効いたサウンドで、その音数の多さにメロディが埋もれている感じがした。何よりも一曲、一曲が長く、アルバム一枚聴くのに相当な集中力を要される。

しかし、何度も何度も聴くにつれ、そのマイナスに働いていた部分が良さにかわっていった。幾重にも詰め込まれた音の洪水が気持ちよくなっていった。ノイジーサウンドニルヴァーナの『In Utero』を彼らなりに再現したかのようで、ウィーザーでいえば『Pinkerton』っぽさもある。さらにビートルズを知り、サイケデリックロックを掘り返していくと、その時代を90年代にやろうとしたことがわかってきて、狂ったSEなど含めてこれはオアシスにとっての“サージェント・ペパーズ”なのではないか?と思うようになった。まるで雷かと思うくらいの轟音が鳴り響く“My Big Mouth”や超メロディアスなのに音がごちゃごちゃしている“Magic Pie”なんかは単品としてもオアシスの曲のなかでは好きなほうに入る。

逆にメロディがパキっとしすぎてるファーストとセカンドは何度も聴くと飽きてしまうというのがあり、今でもオアシスで聞き返すのは『Be Here Now』と『Dig Out Your Soul』で、オアシスで一番好きなアルバムは何?と聞かれればこの二枚のアルバムをあげ、オアシスで好きな曲は?と聞かれれば“My Big Mouth”と“I Hope, I Think, I Know”と答える。

ところが、20年経った今でも『Be Here Now』への反応は冷たい。

「一番好きだ」というと絶対に「え?」みたいなリアクションになり「なげーよ」とか、「いくつか好きな曲はあるけど……」ということを絶対に言われるのだが、よりサイケ色を強め、ボーカルがジャイアンみたいな声になってしまった「Standing On The Shoulder Of Giants」や“Lyla”以外パッとしない「Don't Believe The Truth」、アルバム曲を何一つ思い出せない「Heathen Chemistry」など、改めてオアシスの歴史を振り返ってみると、ディスコグラフィのなかでは悪くない……むしろ良い方の部類になることは確実である(とはいえこれは私見なのでそんなことはないと言う人もいるだろうが)。

間違いなく発売はされないだろうと踏んでいたリマスター盤が発売され、アナログブームが来ているこの昨今、スマホで歩きながらではなく、しっかりと自宅でゆっくりソファでくつろぎながら、お酒を嗜みつつ『Be Here Now』と対面してみてはどうだろうか。ぼくはアナログ盤を所有しているのだが、元々ノイジーサウンドだけあって、アナログとこのアルバムは相性がよく、曲を飛ばしたり、シャッフルせずにアルバムの頭から最後まで長い時間をかけて聴かなければならないというレコードの特性にあっている気がする。実際、音響の良さもあいまって今でもアナログ盤でちょくちょく聴いている。

発売して20年。ぼくは改めてオアシスで『Be Here Now』が一番好きだと声を大にして言いたい。むしろとてつもないアルバムであると改めて再評価されてしかるべきだと思う。とかいってアナログまで所有してるくせにリマスター盤買ってねぇけど……てか、最近いろいろ再発多すぎだろ……はっぴいえんどとかOKコンピューターとかサージェント・ペパーズとか……


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