90年代ギターロックの先駆け『リボルバー』


改めてすごいアルバムだなと思う。

ザ・ビートルズが出した7枚目のオリジナルアルバム『リボルバー』は66年の作品だが、今聴いてもまったく古びてないどころか、今こういうバンドが出て来たとしても賞賛を浴びるだろう。いや、もしくは「ビートルズのパクりだね」と一蹴されてしまうという方が正しいか。

ビートルズ以前、ビートルズ以後」という言われ方をするが、ジャンルを越えたビートルズの方法論はもはや「ビートルズらしい」という言葉で片付けられてしまうくらいスタンダードなものになり、その後のフォロワーを寄せ付けないくらいの地位を築き上げることになった*1

よく「ビートルズでどのアルバムが一番好き?」と聴かれるが、ぼくは真っ先にこの『リボルバー』をあげる。リンゴ以外の楽曲がバランスよく並び、それが『ホワイトアルバム』のような個性ではなく、あくまでビートルズサウンドとして機能している。ありとあらゆる音楽をやっていると評される『ホワイトアルバム』だが、実は子供向けソングからインド音楽とその振り幅は『リボルバー』の方が激しい。特にアルバムのラストを飾る“トゥモロー・ネバー・ノウズ”はあれだけ前衛的なサウンドでありながらポップソングとしても聴けるところが強みであり、『サージェント・ペパー』にも同じようにジョージ作のインド音楽が収録されているが、やはり『リボルバー』の方が3分のポップソングとして昇華している。

そもそもこの『リボルバー』と次作の『サージェント・ペパー』には共通点が多い。ストリングス、ホーン/ブラス・セクションの導入、SEの多用、逆回転のテープ、変拍子、テンポ・チェンジなど、楽曲制作に使われた技術はおろか、先ほど書いたようにインド音楽が入ってるのもこの二作だけである。“ホエン・アイム・シックスティーフォー”は「ひらけ!ポンキッキ」に使われているが、“イエロー・サブマリン”も最初から「子供向け」として制作されていたし、そう考えると『リボルバー』は『サージェント・ペパー』のプロトタイプでもあり、それをブラッシュアップしたのが『サージェント・ペパー』だという言い方も出来るのである。

ただ、この二作には決定的な違いがある。それは『リボルバー』がロック寄りであり、『サージェント・ペパー』がポップ寄りであるということだ。特に『リボルバー』は90年代のギターロックやパワーポップに先駆けたようなサウンドがすでに展開されている。

ザ・フーの“キッズ・ア・オールライト”を初めて聴いた時に「これパワーポップじゃん!ウィーザーがカバーしたらおもしろいだろうなぁ」と思っていたが、一曲目に収録されている“タックスマン”はひねたパワーポップのようだ。テープの逆回転が使われた“アイム・オンリー・スリーピング”は確かにサイケであるが、よく聞くと、ウィルコっぽい。もっと言えばピクシーズの“ヒアー・カムズ・ユア・マン”を彷彿とさせる。

テンポチェンジが激しい“シー・セッド・シー・セッド”とツインギターの“アンド・ユア・バード・キャン・シング”が特に顕著であり、前者はティーンエイジ・ファンクラブウィーザーの“ホリデイ”のようだし*2、後者の『アンソロジー』バージョンはイントロがツインギターのリフでなくアルペジオで、スピッツが作っていてもおかしくないようなギターロックである。

もしかしたらぼくが『リボルバー』に強烈に惹かれるのは、リアルタイムで聴いていた90年代の音楽の香りがするからなのかもしれない。円高の影響もあってビートルズのリマスター盤が安く、それで買って改めて聴いていたのだが、もし今ビートルズってのが聴いてみたいなぁと思ってる方がいるならば、ベスト盤からではなく、この『リボルバー』から入ることをおすすめしたい。と言っても、ビートルズのアルバムはどれもこれも良いけど、あういぇ。

REVOLVER

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*1:フォロワーは死ぬほどいるわけだが

*2:実際曲の出だしはすごく似ている