しかし新譜のタイトルが『Star Wars』て!

ウィルコの新譜『Star Wars』がリリースされた。

めっきりCDを買わなくなり、ヴィンテージロックしか聴かなくなったこの昨今だが、ウィルコだけはしっかりチェックして聴くようにしている。ザ・バンドを彷彿とさせるアメリカのルーツロックへの探求、そこにレディオヘッドのような実験精神をぶちこむという音楽性で、ミュージシャンズミュージシャンのポジションを確立。『A Ghost Is Born』ではグラミー賞を獲得している。

今回の新譜。リリースといっても公式サイトにて八月末まで無料ダウンロードという大盤振る舞い。もちろんCDも発売される。ファンとしてはこの流れでリスナーが増えるといいなぁと思っているんだが、それにしてもこのナメくさったタイトルとジャケはなんだろうか。こないだのブラーの新譜もそうだが、ここまでくるとご新規様に買ってほしいという気がないのではないかと勘ぐってしまう。実際、無料ダウンロードしてるからいいんだけど。もしかしたら中身で勝負したいとか思ってるのかもしれない。むしろタイトルに釣られて別の意味で買う人もいそうである。

しかし、このふざけたタイトルとは裏腹にこの『Star Wars』。とんでもない傑作であった。

最近ブログでこんなことしか書いてない気がするが、ウィルコの良いとこどりというか、総決算であり、とりあえずウィルコとはなんぞや?という入門編にもちょうどよく、もちろん古くからのファンも納得させる作りである。リフものあり、実験精神溢れるものもあり、キャッチーなナンバーもあり、トータルタイムが長い傾向にあるウィルコだが、全部で34分しかないというのも聴きやすいポイントで、特にLPでいえばB面にあたるであろう6曲目からの流れはすばらしく、少しビートルズっぽさも覗かせる。

今回はこの新譜のリリースにかこつけて、今まで出したウィルコの全アルバムの感想を書いてみようと思う。というか前からやりたかったのだが、なかなか機会もなく、どう書いていいかわからなかったし、ウィルコを長年好きなわりにバンドの歴史や歌詞のことはまったくわからないので、ホントに曲だけの感想になってしまうのだが、この無料の新譜で興味を持った方は是非参考にしていただきたい。


『A.M.』

記念すべきファーストアルバム。オルタナカントリーというジャンルに入れられてるが、実はそれは前身バンド、アンクル・テュペロのことであり、実際このファーストはそこまでカントリー色が強くない(もちろんカントリー色が強いものもある)。メロが際立ってて覚えやすく、すごくポップ。イメージとしては「アメリカンなスピッツ」であり、実際ギターのアレンジメントもアルペジオを主体にしたものが多い。人にすすめて「これは……」と言われたことがない名盤中の名盤。個人的にウィルコで一番好きなのはこれ。まずはファーストから聴くことをおすすめしたい。


『Being There』

ファーストから一年後に発表された、二枚目にして二枚組という大作アルバム。とはいえ、そこまで大作感がないのはそれぞれの楽曲が聴きやすいから。この頃から実験的なことをやろうという気概がでてきており、一曲目なんかはその極北。これ以降ウィルコのアルバムの一曲目は変な曲がくるという流れができる。ファーストに続いてわりとポップな曲も並び、楽曲は短めなので、アルバム通して聞くと長いが、飽きはこない。アジカンの後藤がこのアルバムから「Outtasite」を人生の45曲の一曲に選んでいる。


『Summerteeth』

ウィルコの中で最もポップなアルバム。メロはファースト、セカンドほど際立ってないものの、音像はかなり明るく、わかりやすい感じに仕上がっている。前作で見え隠れしていた実験精神は封印され、ロックバンドとして気持ちの良い音だけを鳴らしている。個人的にトラックの多さが気になるが、ファーストと並んで初心者にすすめたい一枚。


『Yankee Hotel Foxtrot』

恐らくこれを最高傑作にあげる人は少なくないはずであり、ぼくも好き嫌いを別にすれば最高傑作だと思っている。ビートルズでいえば『リボルバー』にあたり、実験的な要素が前面に押し出したアルバム。ところが、歌ものとしてメロがどっしりしており、かなり狂ったアレンジの一曲目なんかはかなりそのメロが耳に残る。しかもちゃんとアメリカのロックを打ち鳴らしているのも素晴らしい。ぼくはファーストとセカンドが好きなのだが、このアルバムがウィルコの真骨頂であり、これが受け入れられるかでウィルコが好きかどうか決まるといっても過言ではない。


『A Ghost Is Born』

グラミー賞を獲得した傑作アルバム。前作が『リボルバー』ならこちらは『サージェント・ペパー』であり、その実験的な要素をパワーアップさせたという感じ。10分越えの曲が二曲収録されており、ジャケから『ホワイト・アルバム』に例えても良いかもしれない。実は個人的にこのアルバムはやりすぎだと思っていてそこまで好きではないのだが、一番最後に収録されている「The Late Greats」はザ・バンドの「The Weight」に匹敵する名曲。グレイプバイン田中和将はこのアルバムを「俺を作った5枚」のなかの一枚に選んでおり、チバユウスケは「At Least That's What You Said」を人生の45曲の一曲に選んでいる。


『Kicking Television: Live In Chicago』

二枚組のライブアルバム。レコーディング音源マニアのため、ライブ盤はまったく聴かないのだが、「Misunderstood」や「I Am Trying To Break Your Heart」、「At Least That's What You Said」など、CDとまったく同じように演奏するから驚く。選曲もこの段階でベストに近く、これを入門編として選んでも問題ないと思われる。


『Sky Blue Sky』

前作のムチャクチャさはなんだったんだ!?というくらい落ち着いたアルバムで、ゆったりしたアコースティックな楽曲が多いのが特徴。本人たちが意識してるかどうかはわからないが、このアルバムが一番ザ・バンドバッファロースプリングフィールドに近く、100年前からあるアメリカの音楽と言われても遜色ない感じ。ぼくみたいなヴィンテージロックファンはこういうアルバムに弱い。


Wilco (The Album)』

はじめてのセルフタイトルであり、さらに一曲目も「Wilco」という。ファンはどう思ってるかわからないが、実はこのアルバムが大好きで、ぼくがウィルコに求めるものはなんなのか?を再認識させてくれた。基本的には『Summerteeth』と同じでポップな出来、しかし、アメリカのロックをより強めており、やや土臭い。収録曲も少なく、一曲が短い。一回バンドとしての減点に立ち返ったようだ。最新アルバムはこれの延長線上にあると思っている。


『The Whole Love』

一曲目で「ついにこの領域にいってしまったか……」というくらい実験色が強く、完全に前二作がシンプルだったことへの反動が出ている。しかし、それ以外はウィルコらしさに溢れた楽曲が多く、新譜が出るまでの総決算的なアルバムといってもいい。レディオヘッドが好きな人におすすめ。


ちなみにウィルコの新譜はこちらからダウンロードできます↓
http://wilcoworld.net/splash-star-wars-links/

メールアドレスをいれるとそこに届くという仕様になっているようです。ぼくは知らずになんども送ってしまいました。