ブラー、12年ぶりの新譜『ザ・マジック・ウィップ』

ブラーの『ザ・マジック・ウィップ』を聴いた。

12年ぶりの新譜だが、前作はギターのグレアム・コクソンが脱退していたので、バンドのメンバーが揃ってる状態として考えると16年ぶりになる。

あまりCDを買わなくなったこの昨今。熱心に聴いていたバンドが新譜を出しても「へぇ出してたんだ」くらいにしか思わなくなり、名作のデラックスエディションやリマスター盤ばっかり気になってるくらいだが、わざわざ購入して聴きたいと思ってしまうのだからぼくにとってブラーというのはそういうポジションのバンドなんだなと改めて思った。

正直に告白すると前作の『シンクタンク』はすごく微妙なアルバムだった。

ギターのグレアムが抜けたのはストーンズでいえばキースが抜けたくらいのインパクトであり、デーモンがサイドプロジェクトとかけもち状態だったこともあって「これブラーでやらなくてもいいじゃん」っていう感じが強く、ゴリラズの出来損ないみたいに思ってしまった。もっといえば『13』くらいから「あれ?なんか違うぞ……」という雰囲気があり、この新譜もその路線だろうとちょっと覚悟していた。

しかし、この『ザ・マジック・ウィップ』は良い意味でそれを裏切られる快作に仕上がっていた。

今作は現在のブラーだからこそたどり着いた境地であると同時に、3枚目のアルバムですと言われても信じてしまうくらい初期の要素も強く、シンプルでいてひねくれたポップソングが並んでいる。英国人としてのアイデンティティを打ち出してブリットポップムーブメントを作り出し、そこからありとあらゆる音楽をやりつくして、改めてブラーってどういうバンドだったっけ?と見つめ直したようなそんな印象すら受ける。

1曲目の「Lonesome Street」からもうらしさ全開で、これこれこういうのが聴きたかったんだよ!という積年の想いが爆発。「Go Out」や「Ong Ong」なんかは『パークライフ』に収録されててもおかしくない感じで、グレアムがいかにバンドの重要な要素かを改めて思い知らされる。「Ice Cream Man」は変態路線の曲だが、メロが美しく妙に印象に残るし、「I Broadcast」はライブで「Song2」や「Crazy Beat」に匹敵するキラーチューンに大化けしそうな感じ。もちろんデーモンがイニシアチブをとってるだけあって、南国ムード漂う曲や中国っぽい曲もあるが、それもちゃんとブラーとして昇華し、サイドプロジェクトとの差別化をはかることにも成功している。

あからさまな捨て曲もあるし、ミディアムテンポの曲が多いなとは思うが、ブラーは4枚目までが最高っていう人にとっては間違いない作品になっているのではないだろうか。少しでも気になってる方がいたら買って聴くことをおすすめしたいが、だからといって最高傑作!という感じでもない。しかし、ぼくは5枚目のセルフタイトルのヤツと『パークライフ』の次くらいに好き。実はブラーのアルバムって結構重いから、これくらい軽い方がいいのかも。気軽に聴ける飽きのこないアルバム。


にしてもこのジャケなんだよ……なんで曲リストが漢字なんだよ……

ザ・マジック・ウィップ

ザ・マジック・ウィップ