よりシンプルによりポップにZAZEN BOYS『すとーりーず』

ZAZEN BOYSの『すとーりーず』を聴いた。

毎回毎回ZAZEN BOYSの音楽には驚かされるが、今回も驚かされた。しかもかなり新鮮な驚きであった。

なぜかというと、とてもシンプルでポップだったからだ。

ZAZEN BOYS III」あたりからアーバンなエレクトロニック路線が加わりはじめ、リフをそのまんまキーボードで奏で、夜の街並を表現したような楽曲がちらほら増えはじめた。その後にシングルで切ってきた楽曲「I Don't Wanna Be With You」はそれの最たるもんであり、その流れを汲んだ「ZAZEN BOYS 4」にも「Asobi」や「Sabaku」という同じ路線の曲が収録され、そうかやはりくるりスーパーカーがそうであったように、向井秀徳もこの路線に走りはじめたかと思った。そしてZAZEN BOYSとしてのリリースが滞ってた矢先のKimonos結成。これがその路線を決定付けたといっていいだろう。

ということはである。当然ながらZAZEN BOYSの新作もそういうことになってるだろうなぁと思うのが普通なのだが、さすが向井秀徳。今作はそういった流れの楽曲は一切収録されなかった。またしても良い意味で裏切られたのである。

フリーザが姿形を変え、最終的にスラッとしたフォルムになったように、今回のZAZEN BOYSの『すとーりーず』はかなりシンプルである。確かにコード進行や旋律などはあいかわらずなのだが、ゴリゴリのリフがあり、リズムがあり、そこに歌詞がある。曲によってはキャッチーなメロディもしっかりついている。過度な変拍子や思わず身体がカクカクしてしまうようなみょうちくりんな構成もほとんど廃し、5分を越えるような長い曲もなく、だからといってスキットのような遊んでるトラックも一切ない。絞りに絞ってこの曲たちにたどり着いたようだ。達観したような音像に加え、ロックの原点に立ち返ろうとしているような印象すら感じた。

同じように歌詞もよりシンプルになった。

今までは大正ロマンのなかに現代性が入り交じったり、頭の中の風景と思想をそのまんま描写したものだったり、モノクロのビルに冷たい風が突き刺さるような都市感だったりして、それが独特の世界観を生んでいたのだが、今回は己の欲望にただただ忠実なことばだけが羅列されていく。ポテトサラダが喰いてえとか、今夜の晩酌のお相手はサイボーグのオバケとか、朝まで飲みましょうよとか。

しかも今回はキーボードが見事にバンドサウンドに溶け込んでいる。

「III」くらいから本格的に投入されたキーボードは確かにかっこよく、ぼくも「Friday Night」は大好きであるが、少しばかりバンドのカラーからは浮いているというか、アレンジ面で乖離してる気もするなぁという懸念もなくはなかった。唯一「DARUMA」という曲が一番良い形に収まってると思ってたが、それの進化系だと思っていただければ分かりやすいかと。

よりシンプルになった分、こういうのが聴きたいんじゃないんだよなぁという人にとっては違和感をおぼえるかもしれないが、ぼくはおおいに気に入った。ZAZEN BOYSの1と2あたりが最高だという人にとってはおすすめ出来る。しかし、またあれともまったく違うものなので、それはそれで意見がわかれそうではあるが……

ちなみにiTunesでもダウンロード販売しているが、公式サイトから購入すると特典が満載で金額も同じである。もし購入するならそちらをおすすめしたい。

すとーりーず

すとーりーず