AKBはヒップホップである

- 作者: 長谷川町蔵,大和田俊之
- 出版社/メーカー: アルテスパブリッシング
- 発売日: 2011/10/07
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル ヒップホップ推薦図書」
http://podcast.tbsradio.jp/utamaru/files/20120107_satlab_1.mp3
本文に軽く補足を加えるような形で、本の読みどころみたいなものを紹介してたんですが、その宇多さんの放送を聞きながら思ったんです。
もしかしたらヒップホップの楽しみ方ってAKBのそれと一緒じゃね?って。
特に放送で宇多さんが抜粋したところがそうなんですけど、まずロックリスナー、特にロキノン系と言われてる人はアイドルを嫌う傾向にありますよね?というか、まずぼくがそうでした。今でこそももクロなんかも聞いてますが、友達や後輩にもよく言われるんですよ。「なんでツェッペリンとか好きなのにAKBとか聴くの?」って。
でもよくよく考えると、ロックとかポップスと比較しているからそういうことが起こる。まず意識を変えるというか、まったく別物であるという認識をしないといけない。ここがすでに「ヒップホップをロックと同じように音楽だと思うからおもしろさが分からないのであって、ヒップホップは音楽ではない、そう考えれば逆にヒップホップのおもしろさが見えてくるんです」という一文と呼応します。そもそもAKBのCDの売り方なんてCDの売り方としては邪道っちゃ邪道です。だからその時点でもう音楽ではないと言っていいのかもしれない。
まずAKBは他のアイドルとそのシステムから楽しみ方からすべてが違う。それに気付いたのはだいぶ後のことです。そしてこのAKBという団体を本に書かれている「ヒップホップとはなんぞや?」というのに置き換えてみると意外とすんなりハマるんです。というか、ぼくがなんでAKBにこんなにノレているのかというのが、どうしても言葉に出来なかったんですよ。他の人にもなんでノレているのか説明出来なくて、それがやっと言葉にしてもらえた感じがしたんですね。
「ロックリスナーでボブディランしか聞かないって人はいるけど、ヒップホップ好きにKRSーONEしか聞かないって人はいない」って放送の中でも言及してましたが、例えばAKBファンの中で「オレはノースリーブス*1しか聞かない」って人は絶対にいないと断言出来ます。百歩譲ってSKE*2しか聞かないって人もいるかもしれませんが、それでもAKBは絶対に無視出来ない存在です。何故かというとSKEもAKBの曲を唄っており、さらにAKBの中にSKEが選抜によっては選ばれたりしています。それが推しメンであれば否が応でもAKB自体に注目しなきゃいけないシステムになってるわけです。
同じルールの中で競い合ったり、同じサンプリングを使い回してるとも言ってましたが、似たような曲が多かったり、まったく別なメンバーが『ポニーテールとシュシュ』を唄ったりするのも、そういうことなのかなと。ある種ファンに向けてのアピールというか、その中で選抜を競い合って戦っているという見方も出来ます。さらに歌の中にソロパートがあり、それにコールがかかったりするのもヒップホップのパート分けというか、自分が書いたリリックは自分で歌うというところと似てるように思います。
少し話がズレますが、確かに誰が何を歌っていて、どういう選抜になっているのかという注目から曲を聴くというのはあるんですよ。選抜のそれ自体は秋元康が決めてますが、合間合間にジャンケン選抜やそれこそ選抜総選挙があったりします。もっと言えば総選挙にはシングルA面の選抜を決めるのと、カップリングに収録されるアンダーガールズ*3の選抜を決めるという二つの要素があります。
んで、そのアンダーガールズの曲がシングルA面の選抜の曲をリクエストアワード*4で上回ったりして、そのアンダーガールズを歌ってる娘がステージに立ったりすると、普通に曲を聴くだけじゃ得られない、それこそシーン全体に注目していたからこそのカタルシスが得られたりするんです。ヒップホップはゲームであると本の中に書いてありましたが、そういったゲーム性がAKBにもあるような気がします。チームが分かれたり、アンダーガールズが存在しているのもそういうことだと思うんです。ライブDVDなんか観ると分かりますけど、必ず前田敦子や大島優子がセンターにいるわけじゃない。構成や曲によっては他のメンバーがグッと前に出る瞬間が多々あるし、チームによってその個性がまったく違うように変化したりする。しかもそれがAKB内だけで行われているというのがおもしろいんですね。派生ユニットとはまたちょっと違う感じなんです。意外と知られてないですが、チームAにはチームAの曲があって、チームKにはチームKしか歌わない専用の曲があったり、さらに自己紹介までする曲があったり、セリフを言ったり、そしてそれが個人の技になっていたりと、その辺も近しいものを感じます。
本の中で「ヒップホップは少年ジャンプである」という章がありますが、これもピッタリと当てはまります。「登場人物は努力・友情・勝利の精神でどんどんビッグになっていく」というのは、高橋みなみや横山由衣が東京秋祭りで昇格したシーン*5を思い出させます。「人気が出なかったら即打ち切り」というのも、セレクション審査*6に通じるような気がします。
「ヒップホップはお笑いである」という章も同じですね。たけし軍団や松本軍団はクルーであり、ホモソーシャル感が強いというのはそのまんまAKBにも当てはまります。特に彼女たちは抱き合ったり、チューしたりするのは日常茶飯事ですから。
さらに「ヒップホップって天才と呼ばれるミュージシャンは少ないというか、ファンはヒップホップという場に注目している」というのも通ずるものがあります。確かに松田聖子や山口百恵は天才だけど、AKBを「場=シーン」とすると、その中に天才はいません。ただ、そこでの切磋琢磨が場に還元されるというか、個々が活躍することによって、個人が進化するというよりは、「え?この娘ってAKBだったの?」って感じでAKBそのものに注目が集まって、場そのものが上がって来るんですよ。例えばテレビでおもしろいキャラだなと分かった瞬間にその娘はAKBの選抜に選ばれたりします。そうすることでメンツが循環してシーンに還元されていく。
あとはAKBのメンバーには「まゆゆ」や「ゆきりん」など必ずあだ名がついて、それで呼ぶのがお決まりになってますが、これもラッパーのステージネームと同じような発想だと言えます。AKBにはAKBの世界でしか通じない「推しメン」や「DD」さらに「MIX」に「新規」に「古参」といった用語がありますが、これもヒップホップの「トライブ」や「レペゼン」や「ドープ」などの専門用語に通じるもんがあります。
もっといえば、ヒップホップの壁を越えられなかった作者が足を骨折して、その翌日からヒップホップしか聞けなくなったというエピソードも「弱ってる時にアイドルがすっと入ってくる」というタワレコの社長の言葉に似ている*7――――っていうのはさすがに言いすぎました。ただ、なんで弱ってる時にアイドルがすっと入ってくるんでしょうかねぇ。ぼくは年齢も関係してると思いますが。
というわけで、AKBとヒップホップには妙に似ているところがあるということがわかりました。ただAKBの楽曲にヒップホップに接近したものが一切ない*8というのは不思議な因果です。シーンの構造とグループに似たところがあるのに、曲自体はまったく似てないというのはおもしろいですね。
正直ヒップホップのことをまったく知らずに本の中に書かれたことだけでエントリを書いたので、こんな捕足情報ありまっせ!というのがあれば、どしどしブコメでもしてください。あういぇ。