俯瞰という絶対的な視点『非選抜アイドル』

仲谷明香の『非選抜アイドル』を読んだ。

いきなり失礼なことを書くが、仲谷明香(なかや・さやか)という名前を聞いて、すぐに顔を思いだせるひとはそんなに多くないと思われる。実際ぼくも彼女のことをハッキリと認識したのはNHKで放送したドキュメンタリー「DOCUMENTARY of AKB48+1」を見てからで、最近の話だ。

彼女は国民的アイドルと称されるようになったAKB48のメンバーであるが、そのなかでも一、二位を争うくらい目立たない存在であり*1、運営側から選抜に選ばれたことなど一度もなく、ファンが選抜を選ぶ、選抜総選挙でもランクインしたことがない、いわゆる「非選抜組」のひとりだ。高校野球でいえば、全国で一番有名な学校に入ることが出来たが、ずーっと補欠以下、みたいなことだろう。

そんな彼女が『非選抜アイドル』として、どのようにAKB内で立ち回ってきたのか?を書き記したのが本作である。

通常、このような本を、そのグループに属するアイドルが出す場合はたいてい、グラビアとワンセットでフォトブックとして売られることが多く、AKBのメンバーもそれにならって出しているが、そういった小細工はいっさいなしの新書として発売したということだけあって、本/文章自体は楽しく読めたというのが本音だ。

ハッキリ言って、同じようなことを何度も書いたり、同じような言い回しがやたら出てきたりと、ページ数を増やそうとしてるような痕も残っている*2。ブログとは違う書き方をしているとはいえ、文章自体も洗練されてるとは言いがたいし、何よりもAKBという環境が特殊すぎて、この本を読んでもなんのタメにもならないというのは新書としてはかなり致命的だ。もっと言えばAKBに興味のない人が読んだところで、なんのおもしろみもないだろう。AKBが好きなぼくでさえ、何度も読みたくなるような内容ではなかった。それくらい歯ごたえもない。読もうと思えば、2時間足らずで読めてしまう。

それでもぼくがこの本を楽しく読んだ最大の理由は、この仲谷明香という人の分析力にある。

読んで驚いたのだが、彼女はAKBというどこの馬の骨とも分からない輩があつまったグループのなかで、やたらと物事を俯瞰で見ているのだ。その飛び抜けた能力がこの本を出すまでになったのだろう。

つまりAKBの中にいる当事者でありながらも、第三者的な目線で物事を客観視しているため、アイドルの奮闘記でありながら、AKBという集団にたいする批評性も同時も持ち合わせるというかなり特殊な視点の本になっているのである。Amazonのレビューでも視点が斬新だと書かれていたが、そういうことだとしたら同意せざるをえない。

そして、自らをものすごい俯瞰で見ているために、どのように立ち回ったら生き残っていけるのか?チャンスが巡ってくるのか?をよく分かっており、それが結果として伴っていったことが書かれていく。視点がおもしろいと書いたが、この本もそういった視点から読み解いていくとかなりおもしろい。そしてその結果が、他の選抜メンバーにくらべるとあまりたいしたことないというあたりも、ものすごくリアリティがあっていい。

以前、高橋みなみが「努力は必ず報われる」という名言を総選挙のスピーチでのこしたが、そんな言葉うそっぱちじゃないか!と書き残してNMBをやめていった娘もいる。それにたいして秋元康が「僕の目は節穴だ」とgoogle+に書いていたが、その言葉をそのまんま帯のコメントとして使ったのが本作。

努力は必ず報われるとは限らないが、その努力はあくまで、自分の適材適所を知ったうえでやるべきだった。そしてそれを続ければ、見てる人は見ててくれる。そういうことをこの本は教えてくれる。秋元康の目が節穴かどうかは分からないが、少なくても、現場のスタッフは秋元康よりもメンバーのことを見ているのだ。

辞めていった彼女にも、辞めるまえにこの本を読んで欲しかったなぁ……

関連サイト

http://akb48matome.com/archives/51814637.html


http://akb48matome.com/archives/51814670.html

非選抜アイドル (小学館101新書)

非選抜アイドル (小学館101新書)

*1:自分でそう書いている

*2:実際、本を監修した岩崎夏海は「これじゃ文章が少なすぎる」といって、つっかえしたりしたそうだ