加藤シゲアキの小説を全部読んだ
お久しぶりです。8月の頭から20連勤→6連勤→13連勤→12連勤→8連勤という地獄を味わっておりました。おかげで何もする気がなく、休憩中もほぼほぼ待機という扱いで本を読むくらいしかやることがなく、そのおかげというか、ちょっとした活字中毒になってしまい本ばかり読んでました。そんな中、職場のジャニヲタからNEWSの加藤シゲアキが書いた小説を全部借りて読んだのでその感想でお茶を濁したいと思います。
『ピンクとグレー』
ジャニーズのタレントがはじめて小説を発表したとして話題になり、映画化もされた作品。「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」でも公言していたように今敏の『PERFECT BLUE』の影響がかなり大きく、あの映像の感じを文章で再現したクライマックスは圧巻で評価に値する。ポップカルチャーの引用しかり、あるキャラクターの死と、それを受けて残された人間は喪失感を抱えつつどう生きていくのか?など、基本的には芸能界を舞台にしたライトな『ノルウェイの森』という感じ。読みにくいという感想も目立つが、確かに文体はゴツゴツしており、決して可読性が高いとはいえない。さらに結論を引っ張る傾向があり、突拍子もなく人の名前が出てきて、それが一体誰なのかわかるまでの時間が長いなど、欠点もあるが、おもしろく読めた。吉田拓郎の『流星』の使い方やヒース・レジャー、ポール・トーマス・アンダーソンの『マグノリア』など、固有名詞による例えがうまく、それが全部頭に入っていると、バックグラウンドがより深く入り込めるという仕組み。所詮ジャニーズだろ?と思ってる人も多いと思うが、サブカル寄りの人ほど必読だと思われる。石田衣良が誉めたのもそのへんじゃないかなぁ。しかし、なんで「情熱大陸」と「Mステ」はハッキリと表記しないのに「笑っていいとも」だけはちゃんと表記するのか……その「笑っていいとも」も最初はお昼の長寿番組みたいに表していたのに……
『閃光スクランブル』
この人の本をなんで読みたいと思ったかというと、ツタヤでこの本を手に取って、出だしの数ページで「あれ?この人、マジに才能あるんじゃないの?」と感じたからで、それは確信にかわった。ハッキリいうと中盤、ちょっとやりすぎなんじゃないの?と感じたが、可読性の高さは目を見張るものがあり、構成は見事だったものの、印象に残るシーンがあまりないように感じた前作に比べ、今作は「こういうシーンを作りたい」というところから入ってるような、そんな印象を受ける。それほどにエモーショナルなシーンが多い。文書力が格段にアップされ、ポップカルチャーの引用もかなり決まっている。特に中村一義の「キャノンボール」とピチカート・ファイブの「東京の夜は七時」は元の曲が分かっていると読みながら頭のなかで鳴っているため、そこで泣いてしまう。映像化されたときも同じように演出しないと意味がないように思えた。前作同様『PERFECT BLUE』からの影響があり、特に女性アイドルの卒業や、マネージャーが◯◯……などそのまんまの設定。
『Burn』
ホームレスとドラッグクイーンとの友情を描いた作品で、これまた今敏の『東京ゴッドファーザーズ』と同じ設定。どんだけ今敏好きなんだ……とはいえ、可読性は最高点をマークしており、レイジという名前がそのまんまクライマックスでの重要な伏線になっていたり(ファーストのジャケである)、絶妙な「東京流れ者」の引用など、あいもかわらずサブカル心をくすぐる作り。シーンの作り方も二作目ほど過剰じゃなくなり、喪失感からどう立ち直るのか?というテーマにもイヤミがない。
『傘をもたない蟻たちは』
間違いなく最高傑作で、もし加藤シゲアキで読むなら何がいい?と聞かれたら迷わずこれをあげる。「ゴーストライターが書いたのではないか?」と疑ってしまうくらい筆致も内容も大幅に変化させた短編集。ファンタジー、ホラー、サスペンス、SFにリアルなエロ描写を散りばめ、いよいよ小説家としての実力を見せ始めたという感じ。とはいえ、無理してる感じは毛頭なく、単純におもしろい話が並ぶ。特に脱サラに憧れた男の悲劇を描いた「Undress」と一見普通の恋愛話……という「インターセプト」が驚くほどに傑作。わけわからん生物を喰らいつくす「イガヌの雨」も筒井康隆が書きそうな感じで印象深い。
総括としてはジャニーズのタレントが片手間で書いたような感じではなく、若手の小説家のおもしろい本を読んだという感じ。ボロカスに叩かれた水嶋ヒロや芸能界を代表する読書家で小説も書きながらなんの話題にもなってない太田光に比べれば、ちゃんと正統な評価もあるし、ヘタしたら賞だって取る可能性もあるということで影ながら応援したいと思う。
- 作者: 加藤シゲアキ
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