鶏にすべてをかけた男の話『コックファイター』

『コックファイター』鑑賞。

「私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか」というタイトルの自伝からも分かる通り、損をしないような映画作りで商売人として成功を収めたロジャー・コーマン製作の中で唯一といっていいほど大コケした作品。

アメリカの深南部で実際に行われ、50州のうち47の州で禁止していた“闘鶏”を題材にした同名小説を読み、これはいけると確信し製作に入る。監督は当時西部劇とロードムービーを得意としていたモンテ・ヘルマン。その手腕は見事に『コックファイター』に結実する。実際に闘鶏が行われていた場所でロケをし、キャストもウォーレン・オーツハリー・ディーン・スタントンなど実力者を揃えたものの、映画は大コケ。しかし、転んでもただでは起きないのがコーマン御大。その後、タイトルを変え、ティーザーも変え、本編にないシーンを予告編に加え、その予告に加えたシーンを編集で加え、タルいと感じたシーンをバッサリ編集(これでモンテ・ヘルマンとの確執が生まれたらしい、そりゃそうだ)。それでも当たらなかったため、さらに二度タイトルを変えて、その度に新作として公開されたが(このへんの執念もすごい)、結局低めのペイラインすら越えられずに封印された「幻の失敗作」である。

それもそのはずで、実際観てみるとこの作品は超絶に地味。誰も闘鶏をテーマに映画を撮ろうと考えなかった理由がこれを観るとよくわかるし、あのロジャー・コーマンですらコケた映画なのだから、その後に誰もこういう映画を撮ることはないだろう。そう言った意味では映画史的に貴重な作品であるということはいえる。

作品を簡単に要約するなら養鶏場を舞台にした西部劇といった具合。登場人物をバウンティーハンターだとするならば、各地を放浪としながら、ピストルの代わりに鶏で戦う。しかし、その対決シーンがすべて鶏がくちばしで突きあってるだけ………うーん、地味だ。地味すぎる。ペキンパーばりのスローモーションで鶏がフワフワ舞っていたとしても、これは暴力の美学だ!とは到底なりにくい(むしろならない)。

変と言えば主人公の設定もそうとう変である。どれくらい変かというと、のっけから一切しゃべらない。別に耳が聞こえないとかそういうことではなく、ただ単に言葉を発さない男なのである。その理由は「軽口を叩いて負けたから」…………思わずジャッキーの『少林寺木人拳』を思い出してしまったが、まさかこの映画が元に………なってないよな。うん。

しかし、そういった変な映画である一方。夢を置い続け、ある種の執念をもって闘鶏にのめり込んでいく男の話としてはかなりおもしろい。そしてアメリカンな音楽とウォーレン・オーツの渋さもあいまって、闘鶏のシーン以外はさながら『ガルシアの首』である(妙にざらついた映像やロケを多用するなど実際共通点もある)。

というわけでこの世に闘鶏をテーマにした映画があったのか!と興味があるなら観ることをおすすめ。あとウォーレン・オーツは安定したかっこよさなので彼のファンなら楽しめること請け合いであろう。不意打ちでおっぱいも出るし←ここ超重要な。

関連サイト

映画「コック・ファイター」オフィシャルサイト

コックファイター [DVD]

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参考資料:DVD特典プロダクションノート