国内でソフト化されてない幻の作品『混血児リカ』

『混血児リカ』をUS盤DVDで鑑賞。

結構前の話になるが、いつも楽しくブログを読まさせていただいているマクガイヤさんがニコニコ動画で“Dr.マクガイヤーの冒険式映画ゼミ”という番組をアップした。

いちばん最初に“動く”マクガイヤさんを観たのは今はなきBSの番組「熱中スタジアム」の“引っ越し”の回。たしかクソデカいゲーセンの筐体だったかを窓からクレーンで吊るして入れたみたいなエピソードを披露したと記憶しているが(間違ってたらごめんなさい)、そのときとは明らかに違うテンションで『ドラゴン・タトゥーの女』についてまくしたてるように講義している。

ぶっちゃけ観る前はポッドキャストに毛がはえたような感じだろうと勝手に思ってたのだが、これがかなりしっかりしたつくりで、テロップの出し方や映画に関する補足まで細かく演出されており、普通にこのまま番組として放送してもおかしくないクオリティで驚いた*1。ホームであることも加味されていると思うが、ツッコミ担当(?)の松原由布子さんとのかけあいもあってぼく自身は非常に楽しく鑑賞した*2。第二弾のアップが待ち遠しいくらいである。

その番組の中で熱く「レイプ・リベンジ映画というジャンルがあるんですよ!」と何本かそのジャンルに属する映画を紹介していたのだが、その内の一本が『混血児リカ』だった。

いろんな映画の知識は率先して仕入れてきたつもりだが、恥ずかしながらその内容はおろか、この映画のタイトル/存在すらまったく知らなかった。しかも監督はあの天才・中平康であり、脚本は名匠・新藤兼人という好事家なら飛びつくであろう組み合わせ。しかし、ぴあシネマクラブにも掲載されてなかったり、ググってもそこまで詳細なデータにたどり着けなかったりとある意味で幻の映画となっている。

それもそのはずで、なんとこの作品。国内においては一度もソフト化がされたことがないというのだ。

恐らくそのタイトルと内容のせいだと思うが、当時はそれなりにヒットしたのか、一応三作目まで続編がつくられており、アメリカでは普通に「Rika Trilogy」として、三本セットで売られていると教えてもらったので、Amazon.comで購入して、すぐに一作目を観た。

冒頭。ある女が毒を飲み、苦しみながら死産する。彼女の友人とおぼしき主人公のリカはその死産した赤ん坊をカゴに入れて、妊娠させたであろうヤクザに渡し(さすがにその姿は映してない)、それを見てゲロを吐くというところから映画はスタート。カットがすぐにかわり、何食わぬ顔で「スジを通してやったぜー!」と仲間内でワイワイ楽しんでるところに「さっきはよくもやってくれたな」と先ほどのヤクザが数人の手下を引き連れて乱入。これが普通の映画であればその男たちに女は犯され……となるのだろうが、この作品はスケバン映画といわれるジャンルに属されてるようで、いきなりそのヤクザとリカはタイマンをはることになる………

と、まぁ、一事が万事この調子であり、そのヤクザは対決の最中に事故死(たまたま突き出てた鉄のようなものに突き刺さる)。リカは刑務所に送られるが、刑務所に入ってからも彼女はジャックナイフのように触るもの皆傷つける。キャットファイトは朝飯前。タイトルが出てからは彼女の生い立ちについて描かれていくが、リカは米兵による強姦によって生まれた子であり、さらに義父にも犯され続けた結果やさぐれ、最終的にはヤクザとかかわりをもち人殺しを重ねていく。

この内容からも分かる通りテレビ放送はおろかソフト化は絶対に不可能。非常に差別的だが、力や権力を振りかざす男たちを次々に惨殺していくさまは後の石井隆の映画の主役たちを彷彿とさせる。時代性もあっただろうが、当時、バイオレンスとエロの最先端だった日本映画界に観客が何を求めていたのか?という一片がかいま見れて非常に興味深い。

中平康といえば、ヌーベルバーグに決定的な影響を与えた『狂った果実』や、そのヌーベルバーグからさらに影響を受けたような『月曜日のユカ』などスタイリッシュな作風で有名。その一方でパルチザン的に映画を撮っているらしいのだが*3、もうしわけ程度にジャンプカットと長回しがあるくらいで、いわゆる中平康節みたいなものはほとんど封印されている。血は噴水のごとく噴き出すわ、おっぱい出まくるわ、セックスシーンは多いわで、まるでエログロ路線の石井輝男のようであり、だからこそUS盤が出てるんだと思うが、今の日本映画界がこれとはまったく真逆の方向に傾くなど誰が予想しただろうか。

確かにこの作品は観る人をかなり選ぶが、そもそも映画は見世物小屋であり、テレビで観れないものを体験しにお金を払っていくという側面があるので、こういう刺激的な作品があってもちっともおかしくない。今でこそテレビドラマの延長みたいな手ぬるい映画しか公開されなくなったが、三池崇史園子温が好きだ!という人に是非おすすめしたい一作。興味があるならポチっと1-Clickすべし。

*1:プロの方が編集されてるそうです。大変失礼しました

*2:しかし、変態的なことを嬉々と語っておられるので、その辺は注意されたし

*3:らしいと書いたのはあまりにその作品を観れる機会がないため、未見のものがほとんど