近代アイドルと題材の相性の良さ『ひぐらしのなく頃に』

NGT48のメンバーが多数出演した『ひぐらしのなく頃に』を観た。

超がつくほど人気のメディアミックス作品をNGT主演で、しかもオール新潟ロケで実写化するという負け戦感がプンプン漂う企画で、実際原作の大ファンである妹も「何を考えてるんだ」的なことを言っていたが、我々兄妹、絶賛NGT箱推し中ということもあって、高価なDVD-BOXをお金を出し合い購入。ところが、いざ蓋をあけてみるとこれが想像以上によくできており驚いた。というかとてもおもしろかった。

いきなりだが、そもそも『ひぐらしのなく頃に』という作品は萌え絵的なフニャフニャした甘酢パートから急転直下で八つ墓村的なミステリーになるのが魅力なのだが、それを実写にする場合、その二次元萌え要素を表現するのが難しく、2008年に映画化したときもそれをクリアすることができてなかった(当時AKBだった小野恵玲奈こそ出ていたものの)。ところが、「人差し指と人差し指でつぐつぐ〜」など、人を喰ったような自己紹介をするアイドルが当たり前になってきたこの昨今、それをそのまんまアニメにトレースすることで、違和感がないようになっている。セリフも原作に忠実にした結果、大凡日常でいわないようなものばかりなのだが、それもアイドルらしく振る舞うことでクリア。特にその中でも終始「◯◯なのでございますのよ」とか「◯◯なのです」という喋り方をしなければならなかった清司麗菜本間日陽はある意味で助演女優賞をあげても良いレヴェル。演技初挑戦とは思えない中井りか加藤美南は女優としてもやっていけそうだし、見た目でいうと稲葉友はどうなんだろうと思っていたが、良い意味で肩の力がバリバリに入った演技でもう前の映像化の主人公が思い出せないくらい。ピッタリだったように思う。

さらにスカパーで放送されたということもあり、エクストリームな表現は予算内でやれるだけやっている。飛沫まみれの血しぶき、多彩な死体とグロは熱狂的なNGTファンが観たら卒倒してしまうこと必至。在郷まるだしの新潟ロケも『ひぐらしのなく頃に』の世界を再現するのにピッタリで、わざわざ美術スタッフが作り上げたというゴミ収集場のクオリティの高さは映画並み。映像作品における美術は金喰い虫と言われがちであるが、そこにお金をかけることで完成度の高さを底上げしていて、NGTの企画モノと思って見ていると良い意味でやられる。

実はぼくは原作を途中で断念したクチであり、今回改めて『ひぐらしのなく頃に』という作品を最後まで見返したのだが、そもそもこの作品自体が、さわやかに終わる黒沢清みたいな感じで、『CURE』や『回路』、『カリスマ』あたりを連想させた。人間というのはわかりあえない、常に孤独であり、誰も信じることなどできないというのが根底にあり、大凡あの絵柄(ドラマの場合はアイドルになるわけだが)からそこまでの作品になるとは思っておらず、そのギャップによってテーマがより明確になり、それにはとても感銘を受けた。ぶっちゃけどうせ『エヴァ』みたいに逃げるんだろ?と思っていたラストの着地も納得がいくというか、ああ、これがあったから『まどマギ』もあったのかなと。観てないけど『涼宮ハルヒ』とかもそういった系譜なのかもしれない。

といったわけで、NGT推しも原作ファンも楽しめるようになっている『ひぐらしのなく頃に』はどう考えてもおすすめ。DVD-BOXは高いが特典も入ってて、それがまた泣かせるので是非に。というか『時をかける少女』や『セーラー服と機関銃』みたく、アイドルの登竜門的な作品の新たなバイブルとして、延々映像化され続ければいい。

ひぐらしのなく頃に DVD-BOX

ひぐらしのなく頃に DVD-BOX