綾野剛のテリー・レノックスが完璧『ロング・グッドバイ』

NHKの新ドラマ『ロング・グッドバイ』第一話を観た。

ドラマのプロデューサーがTwitterにて「TLの「ロング・グッドバイ」感想を見ていたらレイモンド・チャンドラーの原作を読んでいない人が多いね」「原作は清水俊二訳の「長いお別れ」と村上春樹訳の「ロング・グッドバイ」があり、どちらもオススメ。僕は清水訳を読み継いできたので村上訳は最初違和感があったが、これがなければドラマをつくろうと思わなかっただろう」とツイートされていたが、いまのこのご時世にチャンドラーの、しかも『長いお別れ』ではなく『ロング・グッドバイ』というタイトルで映像化するというんだからそのこだわりがうかがえる。

読書量はそこまでおおくなく、さらにハードボイルドというジャンルに精通してるわけではないのだが、ご多分にもれずぼくもこの小説は大好きで『長いお別れ』はもちろんのこと『ロング・グッドバイ』にいたってはハードカバー版、ソフトカバー版、文庫版と読んでいる*1ロバート・アルトマンが監督した映画版も初見のころからいまだにオールタイムベストに君臨しつづける作品だ*2

それくらい思い入れが強いのだが、それでも今回のドラマ版。非常によくできていたと思う。

そもそも日本に舞台を移し替えているにも関わらず、そこに映し出されているのはまぎれもない『ロング・グッドバイ』なのだ。日本人が日本の名前でキャラクターを演じているのに浅野忠信はしっかりフィリップ・マーロウに見えるし、なんといってもテリー・レノックスを演じた綾野剛!彼がとにかくすごい。原作から抜け出してきたみたいなテリー・レノックスっぷり!ぼくはこの物語のキモはテリー・レノックスだと思っていて、村上春樹もあとがきで似たようなことを書いていたが、それをちゃんと分かっていて脚色した渡辺あやはエラい!母性本能をくすぐる弱々しさ、子供っぽさ。どこか荒っぽく、退廃している顔つき。ろくでなしなのに放っとけず、ギムレットをこよなく愛し、つねに酔っぱらっているテリー・レノックスを見事に綾野剛は体現している。ぼくの中で綾野剛の株がぐーんとあがった。

しかもぼくにはテリー・レノックスにあたる関係性の友人がいて、今回浅野忠信ギムレットを飲むシーンでは彼との思い出が蘇って泣けてきた。酒を飲むだけの関係性というと相手に怒られるかもしれないけど、前の職場の後輩で、よくみんなから「なんでそんなにふたりでつるんでるの?全然ふたりとも接点ないじゃん」と言われたもんだが、ぼくとそいつをつないでいたのは「酒」だったのだ。千葉県に就職してはなればなれになってしまったが(ホントに長いお別れになったわけだ)、今回ドラマを観て「なんで浅野は綾野剛にたいしてあんなによくしてるの?素性もよく知らないのに」と思った方。そういう人間関係も世の中にはあるということだけは言っておきたい。

少しばかり脱線してしまったが、全体的な艶っぽさは大人の雰囲気で、画作りは豪華。音楽からしてムード満点なのにも関わらずカット割りは早めで語り口はスピーディーということなし。まだ第一話だが、大凡原作通りでこれからもおおいに期待。

しかしなー。小雪の役柄(見た目)がどうも『探偵はBARにいる』とモロかぶりなんだよなー……冨永愛ともじゃっかんキャラかぶるし、そこなんとかならんかったか?とはいえ、他に誰かいるか?と言われても思いつかないしなー。うーむ。

*1:村上春樹は新しく出すたびに翻訳し直すので有名。つってもその違いは細かいため全部把握してるわけではないんだけどねー

*2:というか、この映画がきっかけで小説の方を読み出した