高倉健萌え『ブラック・レイン』
午前十時の映画祭にて『ブラック・レイン』をちょー久々に観た。
いやー改めてすごい映画なんだなと思った。ぶっちゃけ松田優作しか印象に残ってなかったが、彼の存在が“強すぎる”だけであり、他の部分も実はよくできていたんだなということが今回でわかった。
監督は『エイリアン』や『ブレードランナー』の名匠リドリー・スコット。彼の手にかかれば大阪の街もあっという間に『ブレラン』化。濡れた路面にスモーク、さらに巨大な換気扇(というか、なんかプロペラみてーなヤツ)から光が差し込むなど、その独自の映像美学はここでもつらぬかれる。屋台でうどんをすすったり、漢字のネオンが覆いつくすなどファンならばニヤニヤしてしまうこと必至なシーンもある。
昔、観て印象的だった「間違った日本感」みたいなものはそこまで気にならず、むしろ監督自身がイングランド出身ということもあって、ハリウッド映画では珍しくアメリカ一辺倒になってない。“ブラック・レイン”というタイトルが象徴するように、主人公の刑事もダーティでわりと“悪”として描いているのは珍しい。当時イケイケだった日本企業の台頭をそのまんま“ヤクザ”の『仁義なき戦い』に置き換え、その象徴として松田優作をキャスティングするなど、その辺のバランス感覚はさすがリドリー・スコットだが、他国でよそ者扱いされ、思うように仕事をさせてもらえないマイケル・ダグラスは監督自身が『ブレードランナー』の撮影時に苦労したのが投影されてるのかなと思った。
先ほど書いたように松田優作の鬼気迫る演技もさることながら、実はマイケル・ダグラスもアンディ・ガルシアも相当良い演技をしている。松田優作のかつての親分だった若山富三郎も『ゴッドファーザー』のマーロン・ブランド顔負けの重厚さで、彼を「チンピラ」というのに説得力があるが、その松田優作が「あんたほど長生きするつもりはない」と若山富三郎にいうシーンは今観ると鳥肌が立つ。映像のクオリティはもちろんのこと、役者の演技を軸にストーリーを転がしてたんだなということにも気づかされた。日本の俳優勢が決して添え物として扱われないのだ。
しかし、なんといっても今回驚いたのは高倉健の存在感である。
ほぼ全編英語セリフでありながらも、そこにいるのは「英語を喋っている高倉健」ではなく、高倉健そのものであり、あのマイケル・ダグラスと対等に“役者”として渡り合っている。彼が“動”の演技であるならば高倉は“静”であり、その抑えに抑えた演技が自己主張することなく、映画を援護射撃する。故に彼は作品のなかで印象に残らないが、それは自分が作品内にて。どういうポジションにいればいいのかというのをよくわかってあえてそういう演技をしているような気さえした。高倉健はスターである前に映画俳優なのである。
というわけで、よくよく考えると、なんで松田優作はあんなところでアンディ・ガルシアを殺したのか?とか、そもそも犯人受け渡しであんなミスするなよ!とか引っかかるところは多々あるが、スクリーンで観たというのも加味されて大変感動した。わりと一般の人はヘンテコ日本描写のせいで駄作扱いかもしれないが、改めて再評価されることを願う。個人的には高倉健がアンディ・ガルシアとレイ・チャールズの『What'd I Say』をデュエットするシーンだけでも5億点映画だった。というか、へんてこりんなカクテル飲んだり、剣道したり、上司に怒られたりと様々な高倉健が見れる高倉健萌え映画として枯れ専の方におすすめしたい。
あと、これはあんまり関係ない話かもしれないが、ジャッキー・チェンの『ラッシュアワー』は『ブラック・レイン』の基本設定を真逆にしたのかなと思った。ウィキペディアにはジャッキーにもオファーがいってたとあったので、もしかしたらジャッキーも“静”の演技の参考にしたのかもしれない。
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