ダグラス・サークの映画にハズレなし!

以前『天はすべて許し給う』と『心のともしび』については感想を書いたが、急転直下な展開が待ち受ける重厚なメロドラマなので、ダグラス・サークに関してはこの二本でお腹いっぱいになってしまい、他の作品はいいかなーとスルーしていた。

ただ、もうひとつの代表作といわれてる『悲しみは空の彼方に』だけは観ておかないとなーと何気なしに再生したら、これがやっぱりとんでもない大傑作で、これは観るしかないだろうといきおいにまかせシネフィル後輩にふたたびDVDを借りて観てなかった残りの作品も観た。全部ものすんごくおもしろくてこの人の映画にマジでハズレがないなと思った。

フィルマークスには短評をあげ、それをまとめてひとつのエントリにしようと思ってたのだが、すっかり忘れてて今に至る。というわけで今日はダグラス・サーク四作品の感想をまとめて。

↓これは以前にあげた感想。

ジャッキーブラウンの元ネタと聞いて観たのだが…『天はすべて許し給う』 - くりごはんが嫌い


『狼/男たちの挽歌・最終章』の元ネタ『心のともしび』 - くりごはんが嫌い


『ぼくの彼女はどこ?』

家族のいない大富豪が主人公。かつて自分を振った女に遺産を相続させようと町に繰り出して探すが、彼女はすでに亡くなっていた。残された家族がいることを知るや否や、下宿人としてその家族の家に潜り込み査定しにいくという話。

オープニングクレジットがコミック調でそれに引っ張られるように全編原色飛び交う映像。しかし、本編に入ると、大きな屋敷の敷地内を車が駆け抜けるという、いかにもダグラス・サークっぽい雰囲気。

メロドラマの巨匠と言われる彼にしては珍しくコメディ作品であり、著しくタッチが違う。職人監督としての側面もあったのだろうか。『悲しみは空の彼方に』で「もうコメディには出たくないの」とトップスターに登りつめた女優が言うが、それはダグラス・サーク自身の声も反映されてるのかなと思ったりした。

とはいえ、この作品。大傑作である。何よりも貧乏人がいきなり大金を持ったらどうなってしまうのか?というシミュレーションが見れて良いし、役者も全員完璧な演技を見せ、テンポも早くあっという間に終わる。

監督の真骨頂ではないかもしれないが、心温まる映画観たいなという時におすすめ。



『自由の旗風』

アイルランド独立運動についての映画ということで、戦争とコスプレもの(今では好きなキャラクターの恰好をするという意味合いがあるが、本来コスプレというのは映画のジャンルでいうと歴史劇のことを指す)が合体しており、それらを苦手とする小生にとって、かなり重い腰を上げて観たのだが、これがすこぶるおもしろかった。

軽快でテンポもよく、時にユニークで時にシリアス。ロングショットをメインに重厚な画作りながら、88分という驚異的な短さ。ラブロマンスもミュージカルもアクションもサスペンスも詰め込まれたエンターテインメントとして極上の一品。

メロドラマの巨匠、ダグラス・サークということでラスト10分「これは悲恋なの?悲恋じゃないの?やっぱり悲恋だ!いや悲恋じゃないのか!?」といささか強引にもっていくところがおもしろい。文句なしの映画だと思うんだけど、意外と評価が低いのも驚く。

主人公が逃げてる途中で得体の知れない牧師に助けられ馬車に乗って、ビールを飲みに行こうというシーンがあるが、あれは多分タランティーノの『ジャンゴ』の元ネタだと思う。


愛する時と死する時

ロシア戦線から休暇でドイツに戻った兵士が両親探しの旅に出るが、そこで出会った女と恋に落ちて……というお話。

全カット絵画的な美しさと重厚さがあり、カメラは立体的に動き、照明から美術から衣装から画面構築に至っては何から何まで完璧。窓の枠を十字架に見立ててたり、先行き不安になったとたんにガッツリ表情が影で隠れたり、爆破シーンは人物が必ず映っていて空襲の怖さを表現してたり、細かい演出も抜かりない。文句なしの傑作である。

ただ、個人的嗜好として反戦映画が苦手ということもあり、良いのはわかるんだけど……で止まるかなと。メロドラマにならざる得ないしね。



悲しみは空の彼方に

決して若くはないが圧倒的な美貌の持ち主である女優。彼女は元々舞台女優であったが、演出をしていた旦那を亡くしており、子育てもあいまって、その世界から遠ざかっていた。彼女は仕事をしながらスターのチャンスをうかがい、L.A.にやってきたのだが、たまたま縁あって、黒人の女性とその娘(見た目が白人と変わらない混血児)と一緒に住むことになる……というのがあらすじ。

ひとりの女優のサクセス・ストーリーに黒人の母を持つ白人の悲劇が絡む重厚な一作。人種差別問題に母と子の絆、恋愛が絡み合い、さながら群像劇のよう。しかし、その情報量を見事に交通整理した脚本と説明は全部画でやるよ!という圧倒的なスピード感で一気に見せ切る(小さい子があっという間に年頃の娘になってたりとか!)。

決してふたりは結ばれないんだということを画面の「隔たり」で演出してきたダグラス・サークだが、今作でそれは冴え渡り、恋愛のみならず、人種も母子も決して結ばれることはないんだということを全編にわたり明確に表現する。

パキっとしたオチがあるわけではないが、“そして人生はつづく”的なラストも含めかなりお気に入り。ちょっと間をあけてまた観たい。


ちなみに何かの手違いで『翼に賭ける命』と『風と共に散る』だけがなく、観れなかったがこれも観たらあとで加筆していこうと思う。

関連エントリ

メロドラマの巨匠:ダグラス・サーク諸作品を鑑賞 その1 - スキルズ・トゥ・ペイ・ザ・¥

メロドラマの巨匠:ダグラス・サーク諸作品を鑑賞 その2 - スキルズ・トゥ・ペイ・ザ・¥

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