テキサス!チキン!イラマ……『キラー・スナイパー』

キラー・スナイパー』をレンタルDVDで鑑賞。

フレンチ・コネクション』や『エクソシスト』でおなじみ、巨匠ウイリアム・フリードキンの新作ながら、見事に本国ではDVDスルー………どころか、なんとセル版も発売されないという徹底ぶり。つまりこの作品はレンタルでしか観れないということになる。メニュー画面もまったくリキが入ってない体たらくっぷりで、邦題のつけかたもあいかわらずテキトーな感じ。

麻薬の密売組織から借金をしていた下っ端のチンピラが、借金返済のために保険金殺人を思いつく。金のためなら殺人もいとわないという警官、キラー・ジョーの存在を知り、その殺人をジョーに依頼するのだが、事件は意外な方向へと転がっていく……というのが主なあらすじ。

監督の前作『BUG』にも通ずる、シチュエーションモノだなと思ったのだが、原作者が同じだということを見終わったあとに知った。つまり『BUG』をおもしろいと感じた方ならば間違いない作品だといえる。実際、この作品はミステリーでもなければ、バイオレンスでもサスペンスでもない、コメディとも思えるが、そうでもない、これというジャンル分けをすることが出来ない不思議な作品で、しいていえばコーエン兄弟の犯罪劇のようでもあり、ゆるーい『キラー・インサイド・ミー』のようでもある。

しかし、さすが付き合ってる女優の腰の骨を本番中に「いわす」ことだけあるフリードキン。こっちの方が人間の本質じゃね?と言わんばかりに下品で野蛮でいかがわしい部分を全面的に押し出しており、終始、映画は鬼畜な方に舵をとる。なんといってもいきなり映画がはじまったとたんに女性の「土手」が文字通り目の前にドーンと現われるという見事なツカミがあり、そのあとも局部だけでなく、胸やお尻が出るわ出るわのお祭り騒ぎ。あげくトドメにはチキンで○○○○○をさせるという荒技を披露し、空いた口が塞がらない状態。ここは映画史上に残る屈指の珍シーンだといってもいいだろう。意味もなくカンフーが登場したり、テキサス感たっぷりだったり、そもそも原題である『キラー・ジョー』というのもエースのジョーみたいでいかにもうさんくさい。なるほど、DVDスルーにもなるわけだ……

『BUG』のときもそうであったが、妙に俯瞰というか、突き放したような目線があり、ローアングル気味に落ち着いたカメラで舞台劇のように撮り続けることにより、人間の愚かさ、野蛮さをむき出しにする演出は今作でも冴え渡っている。中盤、自作でもある『フレンチ・コネクション』のような手ブレカメラが出てくるが、それすらもネタにしてしまってるような余裕さはさすが巨匠といったところだろうか、それでもこれだけドギツイ作品を作ってくるのだからまだまだお若い。

役者も一度注目を集めるも、その後、パッとしない人たちがフリードキン演出の下、最高の演技を披露し続ける。特にホワイト・トラッシュのステレオタイプみたいなジーナ・ガーションの枯れっぷりが素晴らしい。この人の生気は一体どこへいってしまったのかというくらい、枯れる寸前の下品な色気をプンプンふりまいている。

というわけで、すさまじく観る人を選ぶが、低予算であることを存分に活かした傑作だと思う。クローネンバーグやヴァーホーヴェンに負けない変態フリードキンの下品で野蛮な世界に酔いしれよう。