あなたはこの映画にノレるか!?『ドライヴ』

『ドライヴ』鑑賞。新潟ではセカンド上映扱いになる。二週間限定公開ということもあり、満員御礼だった。ちょっとビックリしたくらいである。

昼は車の整備工場で働きながら、映画のカースタントをしている凄腕ドライバーが主人公。彼は夜になると、強盗を現場から安全な場所まで運ぶ“運び屋”へと変わる。そんな彼が隣人である人妻に恋をする。少しずつ距離が縮まるのだが、刑務所に入っている夫が出所してしまい………というのが主なあらすじ。

いろんなところで書かれてると思うが、『遙かなる山の呼び声』を彷彿とさせるくらい、超古典的な西部劇風のストーリー*1。意図的であるとはいえ、まったく場面にそぐわない音楽や無駄な映像美、唐突かつ強烈なバイオレンスなどバランスはかなりいびつだが、どの映画にも似ていない不思議な魅力を感じる。素材こそ百万回語られてるような話だが、誰が撮るかによって、ここまで印象が変わるのかという良い見本のような作品だ。

セリフは少なく、カットの変わりも早い。かと思えば、役者の表情からすべてを読み取れと言わんばかりにしっかりと演技を写したりと独特のリズムを見せてくれる。まるで短いセンテンスで状況を説明し、行間から感情を読み取る文学のようだ。強烈なバイオレンスも含めて、エルロイの小説を読んでいるような感覚に陥る。

じゃあ、作家性の強い芸術映画なのかと言われるとそんなことはなく、脚本自体はひねりもあり、二転三転する意外性があり、カーチェイスはあり、派手なバイオレンスがあり、ラブストーリーでもあるので、娯楽作であることに間違いはない。そのバランスにすぐ対応出来なければ、この作品を乗りこなすのは難しいだろう。

ライアン・ゴズリングは完璧な演技で、その寡黙さから、やはり高倉健を彷彿とさせる。キャリー・マリガンもその寡黙さに寄り添うような抑えた演技を披露し、悪人も多数登場しながら、全員が怒号をあげるわけでもなく、陰惨なシーンであっても妙な静けさが漂う。そして登場人物もかなり少ない。これは監督が意図した演出のようだが、その役者への演技指導や説明を省いていく演出は北野武を彷彿とさせる。

巷ではリンチに似てると言われているようだし、『遥かなる山の呼び声』を引き合いに出したが、実はこの作品を観て、ぼくはウォン・カーウァイの『いますぐ抱きしめたい』を思い出した。というか『いますぐ抱きしめたい』の映画を説明すると、そのまんま『ドライヴ』のことを指してるんじゃないかと思うほどに似ている。

いますぐ抱きしめたい [DVD]

いますぐ抱きしめたい [DVD]

ウォン・カーウァイの『いますぐ抱きしめたい』は失敗した弟分の尻拭いをするはめになったヤクザの話だ。そこにいとこの女の子が転がり込んでくるということで、ストーリー自体は『ミーン・ストリート』と『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を足して二で割ったようなものである。

ところが、これがまたウォン・カーウァイが撮ったことによって、へんてこりんなバランスの作家性溢れるいびつな娯楽作になってしまったのだ。香港の喧噪のなかで刃物を取りだし唐突に殺しあいをしたと思えば、その一方でとびきりロマンチックなキスシーンがあるなど『ドライヴ』との共通点もある。ストップモーションを多用し、ベタにかっちょよく決めこんでいたが、『ドライヴ』ではそれがスローモーションになっていた。別に元にしたわけではないだろうが、精神的にこの二人の監督は似ている部分があるということである。実際、作品自体はまったく似ていないし。

というわけで『遥かなる山の呼び声』を『いますぐ抱きしめたい』風に撮ったような『ドライヴ』は想像した以上にいびつな映画。ものすごく賛否両論な作品で、Amazon.comでも星5つと星ひとつが圧倒的に多く、絶賛か大酷評かに別れてるようだが、ぼくはかなり気に入った。それこそ『マイアミ・ブルース』とか好きな人におすすめしたい*2

*1:というか、あの映画自体……ね。

*2:実際この作品をオールタイムベストにあげていた古泉智浩氏は『ドライヴ』を絶賛している。