『サムシング・ワイルド』をDVDにて鑑賞。
マンハッタンの税金コンサルタント会社で副社長の座を約束された若きエリート:チャーリー。分刻みでのスケジュールをこなす彼はその地位とは裏腹に、体制へのささやかな反抗として無銭飲食と新聞の万引きをするクセがあった。たまたまそれをルルという女に見つかってしまったことから、事態は急変。彼は奇妙な奇妙な数日を過ごすハメになる……というのがあらすじ。
『ストップ・メイキング・センス』で圧倒的な評価を獲得したジョナサン・デミの86年の作品。映画にハマり出したくらいの時に『羊たちの沈黙』を観て完全に打ちのめされ、そこからジョナサン・デミという名前を知り、この作品にたどり着いた。当時からかなりお気に入りの作品であり、映画自体は傑作とは言えないが、ジャンル分け出来ない展開の妙と選曲のセンスの良さと役者の演技でもって、それなりにインパクトもあり、一時はベストに入れていたくらい好きだった。
この映画を正確に語るとしたら、『赤ちゃん教育』や『ヒズ・ガール・フライデー』に連なるスクリューボールコメディの80年代版といったところだろう。急にバイオレントな恐怖体験に移行するあたりは『ブルーベルベット』にも似ていて、特にレイ・リオッタ演じる、何考えてるか分からない前科者はデニス・ホッパーやジョー・ペシの演技を彷彿とさせる。ちなみに展開と出て来るキャラクターが似ているこの作品は奇しくも『ブルーベルベット』と同時期に公開され、さらにその後レイ・リオッタはジョー・ペシと『グッドフェローズ』で共演することになる。
これ見よがしにジョン・ウォーターズが出演していたり、「モンド・ムービー(ちょっとヘンな映画)」と銘打って公開されたりと端からカルトのラインを狙った感はあるものの、ちょっとヘンなというのはその展開であり、ロマンチックなラブコメと紹介されたりもしているようだが、映画のカラーは数分単位でコロコロと変わる。時にアブノーマルなエロスがあり、時に純愛があり、時にバイオレンスなホラー体験があり、時にロックなミュージカルでもあり、時にズレた笑いも出て来て、ハッキリ言ってジャンル分けは不可だろう。そう言った意味でもこの作品はやっぱりちょっとヘンな映画である。
さて、改めてこの作品を観てみたのだが、実はいろんな映画に影響を与えてるのではないかという風に思えて来た。というのも、男女が一目で恋に落ちて、暴力的な男から逃げるというのは『トゥルー・ロマンス』であり、両親を安心させるために結婚しているという体で、男を軟禁しながら田舎に戻るというのは、男女が逆転した『バッファロー'66』であり、さらに体制に対してささやかな反抗しか出来なかったエリートが、タイラー・ダーデンのような自由奔放に生きてる女に感化され、どんどん価値観を変えて暴走していくというのはまんま『ファイト・クラブ』だったりするのだ。いずれもこの作品以降のものばかりだが、かなり似ている。
日本ではカルトムービーとしての扱いではなく、それほど一般的な知名度もないし、本国でもどのような人気があるのか分からないが、もしこれらボンクラ男子映画に魅せられた方はそういう観点からみても楽しめるのではないか。
長らくDVDは廃盤になっており、自分はその廃盤になったDVDを所有していたのだが、ひっそりとジャケットも一新して再発売されたので、是非おすすめしたい。とりあえずロッテントマトでは評価高いみたいです、あういぇ。
- 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
- 発売日: 2008/04/16
- メディア: DVD
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