今年一番のダークホース!オレはこれを11年待っていた!『さんかく』
Twitterで「観たいなぁ」的なことをつぶやいたらものすごく反響があったのでそれに乗っかって『さんかく』を観た。
これはすごい!『avec mon mari』以来11年間オレはこれをずっと待っていた!文句無しに大傑作だ!
元ヤンキーのDQN男:百瀬とマルチ商法にダマされやすいヌケてる女:佳代は交際二年目の倦怠期を迎えた同棲カップル。ここに佳代の妹:桃が一ヶ月間転がり込んでくる。桃は憧れの先輩の口約束を頼りに上京したのだが、先輩はそんなことをすっかり忘れて同じバイト先ですでに彼女を作っていた。勝手に勘違いしてフラれ、やることがなくなってしまった桃は百瀬と二人で行動するようになるのだが……というようなお話。
倦怠期の夫婦に訪れる危機と言えば小津の『お茶漬の味』や成瀬の『めし』などが有名だが、その系譜からついに頭ひとつ抜けた傑作が飛び出したという感じだ。映画自体は時間軸をずらすこともなく、回想シーンが入るわけでもなく、カットバックが使われるわけでもなく一直線に進んでいき、クローズアップやチャカチャカしたカット割り、仰々しい音楽、変なスローモーションなど、今の邦画界に蔓延する悪しき風習に中指をおっ立てるくらいシンプル。古来日本映画が持っていた魂を現世に復活させたような佇まいすら感じる。ところが映画はジェットコースターのようにものすごいスピードであれよあれよと予測の付かない展開を見せ始め、時にシリアスに時にコメディにそして時にホラーにもなる。
主要の登場人物がそれぞれストーカーすれすれの行為をしてしまうというところもおもしろいが、その笑えるところから底冷えするような怖さに急転直下するのは役者の演技力のたまもの。ミドルショットが基本的に多いため、体全体から溢れる繊細な演技がとにかく小気味いい。特に止めることの出来ない愛情が狂気になっていく田畑智子は『こわれゆく女』のジーナ・ローランズを彷彿とさせ、元ヤンキーで浮気心を持ってるというシャレにならない役どころの高岡蒼甫はこれ以上ないハマり役。初の大役となったAKB48小野恵令奈も鼻にかかった声と舌足らずな喋り方で天然小悪魔ちゃんを素直に演じていて好感が持てた。
説明的なセリフが一切ないため、各キャラクターの過去や性格など映像から読み取らなければいけないが、その情報の提示の仕方がさりげなく、これ以上ないくらい的確な演出を施していて、素直にうまい。フローリングに落ちたシャンプーの泡とか、車のプラモデルを落した後とか、さりげないところに微妙な伏線が貼ってあり、それをまた微妙な演出で回収していく。繊細なだけじゃなく、中盤でメインのヒロインである小野恵令奈を一切画面に出さないという思い切った演出も潔く。大胆なところは大胆に仕上げており、その辺のメリハリの加減にも驚嘆するばかりである。あえて含みを持たせたラストは賛否両論分かれると思うが、個人的にはあそこでぶっつり切った方がダラダラ続けるより良い印象になったかなぁと。
そのタイトルやAKBのメンバーが出てるというだけで喰わず嫌いしてる人もいると思うが、この作品はまぎれもなく本物。原点回帰からその先に行こうとしてるという意味では日本映画の未来がここに凝縮されてるという感じ。これ以上は何も言うまい。絶対必見。あういぇ。
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