輝かない“アウトサイダー”たち『ヒーローショー』

『ヒーローショー』をDVDにて鑑賞。

M-1で1000万円を獲る!という目標掲げ上京してきたユウキは、漫才中にネタが飛んでしまうなど才能には恵まれておらず、あげくの果てにアルバイトも長続きしない中途半端な男。そんな中、元相方である剛志から、ヒーローショーの悪役のバイトを紹介されるのだが、同じバイトをしている役者志望のノボルが、剛志の彼女と浮気をしてしまったことが原因でショーの最中に大ゲンカ。ところがケンカをふっかけたはずの剛志は逆に返り討ちにあってしまい事態は急変。剛志は地元のヤンキーを呼び寄せ、今度はノボルたちを痛めつけた後、金を持ってこいと脅迫。するとノボルたちは自衛隊上がりの勇気を引き連れ、金を渡すから勝浦まで来いと剛志を呼び寄せ報復する。ところが、彼らの暴力は止まらず事態は最悪な方向へ……というのがあらすじ。

女を巡ってヤンキーがケンカしたら歯止めの利かない暴力の連鎖となり最悪の事態に陥るというプロットや、ほのぼのとした田舎がとたんにアナーキーな世界になるという舞台設定、さらに金持ちと貧乏人の格差が盛り込んであるということから、誰がどう見てもコッポラの『アウトサイダー』の換骨奪胎なのだが、これが実に良く出来ている。特に最初の1時間10分まではほぼ完璧で役者に対する演出が出来ない監督が多い中、うまい!と思わず観ながらつぶやいてしまうほど井筒節が全開。ほぼ完璧と書いたのは剛志の彼女とバイト仲間の浮気がバレるところからの流れが全然リアルじゃなく、物語の吸引力がいくらなんでもなさすぎると感じたからで、それ以外はホントに文句の付けようもない。とにかく前半だけだったら間違いなく本年度ベストワンクラスである。

ジャルジャルの二人は演技に関してほぼ素人だっただろうがやはり素晴らしい。ジャズを基調とした音楽や突拍子もない暴力、艶っぽい夜の映像、どう転んでいくか分からない物語など、井筒監督得意のヤンキー映画と思わせといて作品自体はヌーベルバーグやアメリカンニューシネマの影響がかなり強い。さらに物語のピークを迎えてもまだ映画はあと1時間も残っているという怒濤の展開。なんなんだこのド級の傑作は!すごすぎる!と思ったのもつかの間。映画の後半部分は明らかに破綻しており、それが個人的にものすごくマイナスと感じてしまった。

例えばとある理由で消費者金融に行かなければならないのだが、そこでのやりとりが明らかに不自然である。先ほども彼女の浮気のくだりがリアルじゃないと書いたが、物語を次に進ませるためのきっかけが弱く、必ずそこで首をかしげてしまうのだ。別に映画を観ていてそんなことはちっとも気にならないし、そんなことを言い出したらジョニー・トーの映画なんて、全部違和感ありまくりじゃねぇか!とかつっこまれそうだが、特にこの映画のようにスターも出ておらず、日常の地続きのようなトーンだとそれがどうも目立ってしまう。

動物園でのシーンは空っぽなユウキにも“家族”という帰れる場所があるんだということを誇示させるのに必要だから良しとしても、その後にユウキの内面を吐露するシーンがかなり浮いている。間違いなく自衛隊の勇気は、子持ちでバツイチの女に出会うまでは元々ユウキのような男だったわけで、彼の生きてるかどうかすら分からないという心情は勇気にとって察して有り余るところがある。故にわざわざそれをセリフで喋らされると「いやいやそんなの観てる側は前半で分かってるし、勇気もそんなこと百も承知で家まで上がり込んできて連れ回してるんだから!」と観客も思ってしまうところがあるのだ。

そもそもバイトの最中にケンカしてしまったら、ヒーローショーを呼んだ主催者側からクレームなりなんなり来るはずだし、もっと言えば、最悪な事態になった後もバイトの主要メンバーの内3人が来なかったら、他の人たちはどう思うだろう。勝浦に弟がついてこない時点で、あきらかに後半こいつが何かしでかすというのが見え見えなのも失敗で、ケンカ最強男:勇気が最後にあんなことになるのも納得いかない。まぁ好意的に解釈すれば、あそこはもう二度と暴力は振るわないという意味なのかもしれないが。

なんで『ヒーローショー』だけこういう部分で引っかかってしまうかというとその他のディテールがかなりうまくいってるからで、それ以外はホントにほぼ完璧な仕上がりだからだ。特に役者たちの「こういうヤツ居そう!」という描写にかけては天下一品だし、前半の情報量の少なさはうまいのだけど、それに比べると後半が説明過多すぎて、それがどうも「説明してるなぁ」という風に感じてしまった。

ラストの解釈についてはいろいろ別れてるようだが、「誰でも輝けるよ!」というメッセージに行きついた『アウトサイダー』と比べると『ヒーローショー』は「誰でも輝けるわけじゃないけど、帰る場所くらいはある」と言ってるようにぼくは感じた。それでも、彼らのその後を考えれば最悪な後味の青春映画であることは確かなんだけども。

というわけで、ジャルジャルが出てるんでしょーというだけで喰わず嫌いしてる人は必見。『告白』や『悪人』にドヤ顔演出を感じた人もこれなら地上でジタバタしてる感じがあっていいんではないかと、おすすめです!あういぇ。

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