「セックス・アンド・ザ・シティ」に対する反発『ヤング≒アダルト』

ヤング≒アダルト』鑑賞。

かつて人気だったヤングアダルト小説のゴーストライターをしているメイビスは37歳の独身。自由気ままな生活を送っていた彼女だが、そんな彼女の元に一通のメールが届く。送り主はなんと元カレ。内容は「赤ちゃんの誕生パーティーへお越し下さい」 というもの。「これってどういうことだと思う?普通こんなメール元カノに送るもん?」と友人に言いながらも彼女は「きっと彼は結婚生活に満足してない、そもそも彼とは結ばれる運命」というすさまじい勘違いのもと、忌み嫌っていた故郷へ向かう………

冒頭、手あかで部分部分が黒ずんでるMacBookで仕事をするという演出を見て、この作品は良作だと確信した。

それを筆頭に、気休め程度の運動としてWii Fit、よれたハローキティのTシャツ、何ヶ月も洗車してないであろうミニクーパー、何度も何度も巻き戻して聞くティーンエイジファンクラブの「The Concept」*1、ホテルでのペットシーツなど、その人となりと生活感がよく分かるような描写がこれでもかと出てきて、しかも細かい。その圧倒的なリアリティに関心するだけで映画が終わってしまうほどであり、この生活感のおかげで説明的なセリフを使わずに人物の関係性などが見えてくるように仕向けている。

奇を衒う演出はいっさいなく、『マイレージ・マイライフ』の方法論をそのまんま『ジュノ』に当てはめたような印象で、まさに『ジュノ』が大人になったような佇まい。ときおりブレるカメラがドキュメンタリータッチでもあり、街全体を移すような構図が頻繁に出てくるのも印象的で、そこに主人公がひとりたたずんでいるというカットも多く、それが孤独感を表している。さらに回想シーンを入れないことで、あとから観客が知らされてない新事実が明らかになっていくのも仕掛けとしてはうまく、過去二作よりも演出手腕は全体的に冴え渡っている。

さて、この作品。ハッキリ言って『セックス・アンド・ザ・シティ』に対する反発から生まれているような気がする。新井英樹が『課長島耕作』に対する反発から『宮本から君へ』を書いたと言っているが、その精神状態にかなり近い。

そもそもこの主人公の置かれた状況や性格が『セックス・アンド・ザ・シティ』の主役たちを混ぜたような感じなのだ。ライターという職業はキャリーであり、出会ってすぐにベットインしてしまうというのはサマンサで、突拍子もなく、唐突に運命を信じていると言いだすのはシャーロットの役そのものだったりする。共通しているのは都会に住み、みんなお酒が好きで、独身生活を謳歌しているというところだろうか。

ところがこの作品の主人公メイビスは『SATC』のような華々しい生活は送っていない。確かにライターとして成功し、都会に住み、十代の頃と変わらぬ美貌を保ち、モテてはいるが、実際のところ、同じような生活を送っている独身の友人は皆無であり、常に孤独がつきまとう。そもそも、こういうアラフォー女性が4人いて、強い絆で結ばれているという状況自体珍しいのだ。しかも「精神がイカれている」「早く大人になれよ」と言われる始末で、それこそ『SATC』の女性たちはしょせんヤング・アダルトであるという見方を提示しているようにも思えた。

圧倒的なリアリティも生活感もまるで見えなかった『SATC』に比べるとその差は歴然。それは「もし現実に『SATC』のような生活をしている女がいるとしたらこうなる」というシミュレーションを見ているようであった。

おもしろいのは『SATC』に対する反発でありながらも、それを否定していないところ。地味で安定した暮らしがいかに大切で幸せかというのを説きつつ、ラストではそれを覆すような展開になっていて、この辺もこの作品のうまいバランスだ。観客に投げかけるだけ投げかけて答えを出さない。

今までエロ担当で映画の添え物でしかなかったシャーリーズ・セロンが見事なハマり役で、圧倒的なリアリティを持つ細部を援護射撃*2パトリック・ウィルソンも『リトル・チルドレン』を彷彿とさせる役どころで、彼しかいないだろと思わせる。

正直、クライマックスの展開があまりにもすぎて浮くのと、『マイレージ・マイライフ』よろしく、観客にグレーゾーンなことを投げかけつつキレイに終わるので*3、人によってはモヤモヤするかもしれないが、個人的にはこの監督作では一番気に入った。笑える個所もかなり多いので、万人におすすめしたい。良作。

マイレージ、マイライフ [Blu-ray]

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*1:この曲はアウトロがやたら長く、歌う部分が少ないため、車で何度も歌うためには歌部分が終わったら巻き戻さなければならない

*2:普通は逆なのだが

*3:明確なオチをつけてるのがポイント