『仮面ライダーW』を全話観た

子供の頃から日曜の朝に放送しているようなアニメや特撮モノを観るという習慣がなかったので、ずーっとスルーしていたが、レイモンド・チャンドラーと『探偵物語』が大好きだといったら後輩(@Gung_hoo_Guns)が「探偵を主人公にした仮面ライダーがあるんですよ」とおすすめしてくれてて、それだけは頭の片隅にあった。

月日は流れ、縁あってTwitterでやりとりさせていただいてる漫画家の二ノ宮知子さんとたまたま仮面ライダーの話題になり*1、「実は後輩からおすすめされてるんですよー」と書いたら「無料配信中だからすぐ見て」とプッシュされ「まぁ無料でしかもネットで観れるなら……」という軽い気持ちで観ることにした。

そうしたら、これがおもしろいのである。

最近、映画を観るテンションではないというのもあったが、日本の土壌にピッタリあったアクションモノとして肩の力を抜いて観られるのが良い。だからといってお決まりごとはなく、シャマランの映画のようにホラーやSF、ミステリーといった様式を仮面ライダーとして一回落し込み、さらにコメディとして描き直しているので、毎回すごく新鮮に感じる。

さらに架空の街を舞台に、そこのなかだけで事件が起きるという設定がハードボイルドっぽくて良いし、バディものでありながら後半もう一人ここに加わることでチーム萌え要素もあるし、フィリップと若菜のやりとりも胸キュンからメロドラマになり、最終的に『2001年宇宙の旅』みたいな壮大なものになってそのギャップもすごい。

そういうわけで、各話の感想をいちいちTwitterにあげていたのだが、それをひとつにまとめたかったというのもあって大幅に加筆し、「仮面ライダーWの全話レビュー」としてエントリにした。これから観るという人は否が応でも最初から観ることになるので、これを読んだところでポカンとなるだろうが、一応ド新規ながらぼくが観た仮面ライダー感想ということで軽く参考にしていただければ幸いである。ちなみにネタバレはない。


1/2話。いきなり本棚に『ロング・グッドバイ』のハードカバー版とソフトカバー版が両方入ってたり『探偵物語』で使ってた机を使ったり、さらにコーヒー噴き出すシーンがあったりと、生半可なことはしないという所信表明が見られる。『フレンチ・コネクション』のように高架下を突っ走っていくチェイスシーンがカッコよく、さらにそこから空中でのアクションのカメラワークが素晴らしい。ツカミとしては最高。


3/4話。今回はバスを使ったチェイスとカンフーアクションのようなものがあり、そのバリエーションに驚かされる。カジノでババ抜きするシーンのカメラワークがデパルマっぽくて、その緊張と緩和みたいなものが素晴らしかった。あと寺田農が完全にムスカの実写版として演技をしているのだが、これは監督からの指示だろうか。


5/6話。お父さんが仮面ライダーだという依頼からはじまる、ハーフボイルドであることを全面に押し出したような回。相方のしっかりした「傷だらけの天使」であり、こういう感じの話はよく見かけるので入りやすい。いきなりライダーに変身したら「パパー!」って呼ばれて焦るのがアバンタイトルであり、やっぱり様式的ではないところへ行こうとする。


7/8話観た。板野友美河西智美、初登場回で、なんとゲストにラーメンズ片桐仁。話は結構入り組んでいて、ふたつの話を同時に見せ切るような構成(あとでひとつになるが)。変身すると相棒が動けなくなるという設定なので、そのためにピンチが訪れるのが印象的。『死霊のはらわた』のオープニングみたいな地を這うカメラを多く使っている。


9/10話。フィリップくん控えめ回。山本ひかる嬢がメイドとなってパティシエと潜入捜査するというストレートな探偵モノ。アクションに関してはCGを多用してわりかし派手である。「ビギンズナイト」という言葉が出てきていよいよ物語が大きく動きだす予感が……あと寺田農ムスカ化が止まらない……もはやムスカにしか見えない……


11/12話。今までの風都を舞台にしたジョジョ4部のような雰囲気から一転。どんな状況だとしても殺人は正当化できないのか?に踏み込んだ一作。『ダークナイト』以降のヘビーでシリアスなヒーローもの。再びクイーン&エリザベスが登場し「女ひっかけて食いもんにしてる」という際どいセリフがある。この時間帯にしては攻めてるが、その辺も含めて娯楽してる感じが良い。ラストもビターな感じで染みる。


13/14話。傑作。街の一部が破壊されるシーンからしてスケールがすさまじくデカく、フィリップが安楽椅子探偵として大活躍。街のアイドルである若菜さまとの絡みは胸キュンラブストーリーとしてキュンキュンしまくり。意外な犯人像と少しずつ明かされていく真実にミステリーとしての楽しさも備わる。しかし、どう考えても若菜の消えた弟って………


15/16話。仮面ライダーを捕まえてほしいの!という謎の依頼からはじまるミステリー。バイクのチェイスブルース・リーばりの構えで見せるアクションシーンが素晴らしく、翔太郎とフィリップのベタながら熱い友情に目頭が熱くなる。コメディ部分は少なくシリアス。いわゆるひとつのハードボイルド調。


17/18話。バードメモリによって急に未知の力を持ってしまった少年少女の顛末。アメコミヒーローものっぽいが悪の力に汚染されてしまうという展開で作品としては後になるが『クロニクル』にかなり似ている。ファングのアクションが新機軸でその振り付けの違いが楽しい。かなりビターな終わり方であり、ハードボイルドがベースになってるということを思い出させる。


19/20話。新キャラアクセル登場回。連続殺人事件を刑事と追うという話だが、そこに絡み合う人間模様と意外な犯人像、そして動機がお見事。サイコスリラーの要素がある。敵が『Mr.インクレディブル』のフロズンみたいでかっこよく、また新たな見せ方で飽きさせないが、全体的にガイアメモリの能力がジョジョのスタンドっぽいので、こちらもホワイト・アルバムみたいである。ラスト付近が『マイノリティ・リポート』っぽい。傑作。


21/22話。地を這うようなカメラとアクションの決めカットが美しく、ジャッキーばりの落下スタントがあるなと思ったら坂本浩一監督だった。木下あゆ美嬢が大変お美しい。ことが終わったあとにすぐカラオケする翔太郎に笑う。


23/24話。オーディションで歌手を発掘するというのがテーマであり板野友美河西智美の本領発揮といったところ。翔太郎とフィリップが歌い踊るシーンもある。風都の中で起こるゴタゴタだが、アイドルとファン、そしてその才能についてなど、AKBを出演させておいて、その話やるかという攻めた回でもある。フィリップを見てイケメンと騒ぐ若菜嬢に萌え。


25/26話。ある小説を酷評した評論家やライターが次々と人形に殺されるという話でかなりホラー的な要素があるかと思いきや、これがコメディとして撮られている。『チャイルドプレイ』や『シックスセンス』っぽい感じ。ここまで徹底してコメディエンヌだった山本ひかるの渾身の演技が光る。


27/28話。脱出マジックを極めるためにガイアメモリに手を出してしまった見習いマジシャンの話。本編全体に関わる重要な要素があるのだが、それとマジシャン絡みのエピソードのバランスが微妙。しかし、長澤奈央に完全に恋している監督の彼女をかわいく撮りたいという想いが爆発していて、それ故の歪さではないかと思う。実際女優を撮るのはうまいかもしれない。


29/30話。夢の中で殺されてしまうと現実に戻れなくなるという『エルム街の悪夢』ベースのお話だが、これがなんと時代劇になるというトンデモ展開。シリーズ屈指の異色作といえるだろうが、実は話がしっかりしてるため型崩れしない。型があるから型破りとはよくいったものである。犯人の動機やその発端もよく、昨今の壁ドン的なものを予言していたかのようなシーンもある。「ぼくのパートナーは君ひとりだ」とフィリップに言われて照れる翔太郎に萌え。


31/32話。物語がひとつ大きく動き出すキー回。ロケが完璧であり、それのせいかロングショットが多く、映画的である。感情が動く場面で雨が使われたり、音楽もしっとりしていて、オチも含めて最もハードボイルドらしい。『ワイルドバンチ』よらしく死地に向かうところでスローモーションになるがここで燃えない男はいないだろう。


33/34話。ジョジョのムーディーブルースみたいなガイアメモリ登場でますますスタンドっぽくなる(そういやぁ天気操れるとか言ってたな)。ほんわかしか雰囲気から一気に『メメント』のような切ない復讐劇へ。最初の方で一瞬だけだが「例のプール」が映る。オチが『探偵物語

35/36話。どしゃ降りの中での格闘シーンがかっこよく、復讐の力を最大限引き出せ!というのは「ドラゴンボール」っぽい。アクセルが新しい力を身につけたが、これがスタープラチナザワールドみたいでまたしてもジョジョ感。途中に謎のモトクロスシーンもあり。


37/38話。憧れのアイドルが間近にいるのに堂々としているフィリップくんが見られる。ふたりの関係性が明らかになり、物語もいよいよ大きく動き出す感じだ。メロドラマとしてかなり切ない展開であるが、もしかしたら『スターウォーズ』っぽいのかもしれない。


39/40話。まさかのTジョイが舞台でしかも当時アイドリングだった谷澤恵里香(今じゃ考えられないがお色気もあり)と元・ジャニーズの川野直輝がゲスト。憧れの人で映画を作りたいがゆえの暴走だったのだdが、その映画作りをガイアメモリのリハビリにするのいうのが笑える。いよいよ若菜が本格的にストーリーに参戦。アクションもだんだんスケールがデカくなってきた。


41/42話。無実の罪で捕まった刑事を助けるべく犯人を追うというこれまたよくある話。尺の調整として捜査をすすめていく経緯を高速のカット割りでいっきに見せるところが印象的でどことなくガイ・リッチーみたいだった。あいもかわらず感情が動くと雨が降るのだが、どしゃ降りの雨の中でもしっかりと毛先が遊んだままの翔太郎がすごい。優しさに溢れたハーフボイルドと揶揄されていたが髪型はハードボイルド!(しかし次のシーンではしっかりと髪が濡れている)


43/44話。老人になってしまう能力をもったドーパントということでまたしても設定がジョジョグレイトフルデッドとかぶる。しかも依頼者の子供は身体が老人になるだけなのに翔太郎はなぜか頭の中まで老人になってしまうという矛盾が……怪人がライダーに変身する隙を与えてくれないという演出が新しく、それゆえにハラハラする。確かに変身するポーズの間はスキだらけなんだよなぁ。逆にそれを利用してスピーディーに変身するなんてシーンも全体的に多い。


45/46話。洞窟に潜っていって宝を探すというシーンが『プロジェクトイーグル』のそれと一致し、拉致された若菜が晩餐会みたいな食事をするなど『スパルタンX』を彷彿とさせるジャッキーオマージュ回。しかし『エヴァンゲリオン』のような真実がフィリップに明かされる。全体的に映像がモノトーンのように暗く、音楽も含め、翔太郎の演技もシリアスで怖い。伏線が回収され、運命が動き出す!アクションのスケールも圧倒的。


47/48話。ドラマ要素を強めた分、ストーリーにおいていささか強引なところも目立つが、基本的に役者の演技を中心に据えた結果であり、ラストの方で桐山漣が泣きの演技を披露する際、それを結構長めのカットにしたりと、珍しい演出が見られる。しかし尺が決まっているため、どのように調節するかというと、敵のアジトにかちこむシーンで4人を同じ画面におさめ、同時にアクションをさせるという荒技を披露。人物配置も含め、あれは大変だったんだろうなぁと思った。ストーリーでいえばこれで終わるわけで、すべてのセリフが印象に残る。改めて主演のふたりは良いコンビだ。泣いた。


最終回。後日談的なボーナストラック。翔太郎のうっかりミスにおいおいとなるが、そのあとの「やぁ翔太郎」に思わず鳥肌。様式美に特化したような回でわりかし実験的なことをやってただけに新鮮。ちゃんと怪人も変身するまで待ってくれてる。『探偵物語』の最終回と呼応したような展開にあっさりしたラストも良い。


最初はふたつに分けるつもりだったが、それはそれでめんどうなので、こうしてひとつにした。かなり長くなってしまったので、劇場版についてはまた別エントリとして感想をあげることにする。先ほども書いたが『仮面ライダーW』はyoutubeやニコ動にて絶賛無料配信中である。

*1:二ノ宮さんは仮面ライダーが大好きである