夫婦を超えた先にあるもの『逃げるは恥だが役に立つ』

14日の土曜日に幼なじみ一家の自宅に行き、子供たちが恋ダンスが好きだということもあって、酒を飲みながら去年話題になったドラマ『逃げるが恥だが役に立つ』を観た。

最初は飲みながらだったのでワーワーキャーキャー言いながら観ていたのだが、子供たちや幼なじみ夫婦が寝出してからも夢中になって結局朝5時まで観ていた。キュン死に+星野源へのルサンチマンのせいで、数時間で2歳くらい老けたと思われる。

パロディの連発を含め、映像作品として多面的な魅力があり、ものすごくおもしろかったのだが、夫婦の理想や夫婦を超えていくというテーマが進むにしたがって、ちょっとトンでもない方向にいき、それに衝撃を受けたのでブログに書くことにした*1。ちなみにネタバレ有り。まぁネタバレしたところでおもしろさが半減するとも思えないが。

もう知ってる人も多いと思うが、話を要約すると、我が強い性格のせいで派遣切りにあってしまったガッキーが星野源の元に家事代行としてやってくる。親の事情もあって、家がなくなってしまうことから、気難しい性格の星野源を説得するため、住み込みで働かせてもらう理由として契約という形の結婚を申し込み、星野源もそれにメリットを感じ承諾する。そんな特殊な関係でひとつ屋根のした暮らすことになったふたりだったが一緒に住んでいくうちに恋愛に発展していき……とよくある感じだ。

ここまでは(ムチャクチャだけど)まぁ、フィクションとして無い話じゃない。しかし、すごいのはここから。

星野源は優秀なプログラマーで収入もかなりあるのだが(だから家事代行も頼める)、ガッキー同様、なんとリストラにあってしまう。次の就職先を決めるも、給料が減ることがわかり、このまま契約結婚の形を維持できないことを危惧したガッキーは収入を補うために自ら働きに出ることを提案する(この時点でふたりはかなりの恋愛状態に発展していたので辞めるという選択肢はない)。今までは雇用主と従業員という関係で「仕事」として家事をしていたガッキーだったが、それを星野源と分担することになった。

ここからふたりの関係性に変化が生まれる。

今まで完璧に家事をこなしていたガッキーも忙しさにかまけて手を抜くようになってしまう。星野源は今までの仕事ぶりからすると納得がいかないので、なぜちゃんとやらないのかと聞くとガッキーはこう返す。

「今までは仕事として、お金が発生していたので、念入りに掃除もしてましたが、今はボランティアという扱いなので、そこそこの生活ができるほどであれば、ある程度のところでやめればいいかなって」

これをキッカケにガッキーはどんどん本性をあらわしていく。米を炊いておいてくれと頼んだのに、風呂掃除に夢中になって忘れてしまった星野源に対し、「なんでそんなこともできないんだ」的な態度で怒りだし、それまで工夫に工夫を重ねてきた料理もお惣菜を買ってくる程度のレベルに下がっていく。冒頭で会社をクビになってしまった性格を反省しつつも仕事のストレスのせいか、細かいところにどんどん口を出すようになっていく。

星野源としては「家事を完璧にこなして、優しいことばをつねにかけてくれたガッキー」を好きになっていたので、そのギャップにどんどん幻滅し、互いの齟齬から夫婦関係が破綻していく。逆にいえばこれが本来の普通の夫婦の姿であるはずなのに、幻想を抱いていた分、現実に打ちのめされていく……というのが後半の展開だ。

大半の人はこのドラマを「夫婦を超えたら家族になるしかない」という感じで観ていたのではないだろうか?新婚のときはよくしてくれた奥さんも、子供が生まれると変わってしまうと世間的に言われているし、育児や家事をしない旦那に愛想を尽かすなんてこともよくある話で、それも超えることが夫婦であり、超えた先には家族があると。

ただ、ぼくはそれと同時に「家事に報酬を出し、互いが満足できる恋愛関係があれば、夫婦はうまくいく」ということを暗に示唆しているドラマなのではないかとも思った。

恐らく制作サイドとしては『昼顔』のように「こんなこと現実にあるわけねぇだろ!目を覚ませ!」と冷や水ぶっかけたはずだが、その一方で「金くれればもっと家事くらいがんばるわ!」と受け取る共働きの妻も一定数いてもおかしくなく、突き詰めれば「結局世の中は金かよ」と思わなくもない。なんといっても星野源がリストラされるまでふたりの間にはそれを阻む障害は何一つなく、ある程度の齟齬があったとしても不満は“ムズキュン”と呼ばれるくらいで関係はうまくいっていたからだ。

実際、最終回の最後の最後までギクシャクしてたふたりだったのだが、なぜかハグ一発で仲直りし、その先の未来はどうなるかわからないというあいまいな感じでこのドラマは終了する。それがとても「いやーよかったよかったねぇ」という感じには受け取れなかった。少なくともぼくのような人にとってはだが。

もっといってしまえば、星野源がああいう性格だからよかったものの、これガッキーがリストラされた理由みたいに、相手が上司のような人だったら音速で家から出てけ!と言われてた可能性だってなくはないし、本来ガッキーも星野源の気難しい性格に耐えられるようなキャラではないのだ(初めて付き合った男はちゃらんぽらんなエグザイル崩れだし、友人はヤンキーである)。だいたい星野源に至っては改めてちゃんとプロポーズするにあたり、またしてもリスクや金額のことを言い出し、結婚ってそういうことじゃねぇだろ!とガッキーが激怒するくだりがあるように人の気持ちも理解できないし、恋愛スキルもまったくない。というか、恋愛なんて興味ないという今時の若者と揶揄されてるようなキャラクター像である。

見終わったあとで「これ夫婦で見てたとかすごいな」と正直に思ったのだが、幼なじみとはいえ、他者の夫婦関係に首をつっこむわけにもいかず、翌日、全話観てたという独身の後輩に「どう思う?」とこの話をしたら「そんなことまったく思わず観てました」と言っていたのでまぁそんなものなのかもしれない。というか、これはぼくの一方的な意見なので、是非いろんな人の話を聞いてみたいものである。といっても、周りにはこれ観てる人ほとんどいないけど。

逃げるは恥だが役に立つ Blu-ray BOX

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*1:正確にいうと最初はフェイスブックに書いていたのだが、マクガイヤーさんに「ブログで書いた方がいい」と言われてブログに改稿して載せた